福谷充輝のホームページ

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論文が採択されました (Measurements of tendon length changes during stretch-shortening cycles in rat soleus)

Scientific Reportsに投稿していた論文が採択されました。

Measurements of tendon length changes during stretch-shortening cycles in rat soleus

Atsuki Fukutani,  Satoru Hashizume, Tadao Isaka

この論文は、生きた状態 (筋の三次元構造や生理的な収縮機構が維持された状態) の
ラットのヒラメ筋・アキレス腱を対象に、
stretch-shortening cycleを行わせたときのアキレス腱の長さ変化を実測することで、
腱の長さ変化がstretch-shortening cycleによる筋力増大効果に与える影響を検証したものです。

腱 (特にアキレス腱) を対象とし、
腱が反動効果の主要因であると報告している論文は数えられないくらい存在しますが、
実はアキレス腱の長さ変化をヒト生体で測るのは非常に困難なため、
これらの論文の多くは腱の長さ変化を実際に測ったわけではなく間接的な方法で評価しています。
そのため、なんとか直接的に腱の長さ変化を測れないか、ということで、
動物ではありますが、動物が生きた状態でヒラメ筋とアキレス腱を露出させ、
ビデオカメラや顕微鏡を使って詳細に長さ変化を観察しようと思い、この実験を行いました。

そうすると、予想通り、stretch-shortening cycleを行うと
(主動作である短縮性収縮の前に伸張性収縮を行うと)、
純粋な短縮性収縮を行った時と比べて明らかに筋力が増大しましたが、
その時の腱の長さ変化動態は、stretch-shortening cycle試行も純粋な短縮性収縮試行も同じでした。
正確には同じではないと思いますが、違いが検出できるほどの腱の伸長はありませんでした。
そのため、stretch-shortening cycleによる筋力増大は、
腱の長さ変化では説明することが出来ませんでした。
つまり、これまでの考え方に再考を迫る結果が得られました。

この結果はある程度予想していたもので、
というのも、腱細胞が全く含まれない単一の筋細胞で実験をしたときにも
stretch-shortening cycleによる筋力増大は明らかに生じることを確認していたため、
腱以外の要素も反動効果に貢献するということに確信を持っていたからです。
(ただし、この実験結果では、【腱以外の要素も反動効果に貢献する】ということは言えますが、
【腱は反動効果に影響を与えない】とは言えないことには注意が必要です)

ちなみに、これまでの多くの先行研究とバッティングするような実験結果ということもあってか、
査読ではかなり苦労しました。時には、
「腱は伸ばされると弾性エネルギーが蓄積し、そのエネルギーがパフォーマンス増強に貢献する。
また、腱の長さ変化が生じるということは、筋の長さ変化も生じるということであり (筋腱相互作用)、
これによってもパフォーマンスは増強する。申請者はこの腱の基本的な機能を無視している」
という指摘が編集者から送られてきて一発リジェクトされたこともあるのですが、
私はここがポイントになることは100も承知だったので、
本論文の中でもかなりのボリュームでこれに言及していたのですが、
なぜか無視していることになってしまいました・・・。

もっとも、この論文の結果が正しいかどうかは、
(バイアスのかかっている実験者本人である) 私が判断するべきではなく、
第3者が公平に判断するべきだと思いますので、
解釈は慎重になっていただければと思います。

ただ、個人的な感覚を話させていただくと、
腱をそれなりに伸ばすのはかなり難しそうです。
今、腱がどれだけ伸びるのかを確かめるため、
“この条件なら腱は絶対伸びるだろう”
(逆に言えば、この条件で伸びないのなら腱の伸びは期待できない)
という条件で実験を行っているのですが、なかなか腱は伸びません。

そういう意味で、【この条件なら伸びるのでは?】というアイデアを持った方がいれば、
ぜひご提案いただき、一緒に実験をしたいと思っています。
現状、私は “腱は (あまり) 伸びない” というスタンスですが、
“腱は (しっかり) 伸びる” というスタンスの方でも、
建設的に実験を進めていけるのであれば大歓迎で、
結果がどちらに転ぶかはわかりませんが、
一緒にstretch-shortening cycle中の腱の動態を明らかにしていければと思います。

写真

Atsuki Fukutani Ph.D.
(Sport Sciences)

Faculty of Sport and Health Science, Ritsumeikan University, Assistant professor

1-1-1 Noji-higashi, Kusatsu, Shiga, 525-8577, Japan

info@skeletalmuscle.net

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