福谷充輝のホームページ

福谷充輝のホームページ

今後は、ホームページに新たなカテゴリーを作って、自身の研究紹介のようなコンテンツを作りたいなと考えています。
それに先立ち、ブログで簡単にどのような研究手法があるのかを紹介したいと思います。

私が最も興味あるのは、筋の収縮 (筋力がどのように調整されているのか?、どうすれば大きな力が発揮できるのか?) です。
これは、自身がスポーツをやってきて、フィジカルを向上させるにはどうすればいいのか?と考えてきたことが原点となっています。

一重に筋力計測といっても、いろいろなやり方があり、
例えばヒト生体の関節運動を対象としたものや、動物の筋を摘出したもの、もしくは単一の筋細胞を取り出したものなどがあります。
筋力を測るという意味では共通の考え方は多いのですが、実験対象が異なると、測定方法や必要な機材が大きく異なることもあり、
ヒト生体を専門としている研究者、もしくは単一の筋細胞を専門としている研究者といったように、
棲み分けをするのが普通です。

ただ、私は、これが自身の長所だと思っているのですが、
筋収縮に関することであれば、ヒト生体でも単一の筋細胞でも、はたまた分子レベルの現象であっても興味があり、
様々な実験系をやったことがあります。
なので、大学や文科省、民間団体などから多くのサポートを頂きながら、
筋収縮に関する様々な実験機器を揃えてきました。

その中で、私が力を入れている実験を何個か紹介したいと思います。
今回は、skinned fiberという実験系についてです。

これは、単一の筋細胞 (もしくは数本程度の筋細胞の束) を取り出して計測を行うというものです。
この実験系の最大のポイントは、筋細胞の膜を破壊しているため、
筋細胞の中に様々な化学物質 (栄養、もしくは毒のようなもの) を自由に送り込めるということです。
通常、細胞には膜があり、この膜 (仕切り) があるため、物質が自由に細胞内外を出入りするというわけではなく、
特定の物質が、特定のタイミングでのみ、出入りします。
しかし、この膜 (仕切り) がなくなると、流入を制御することができなくなり、
skinned fiberをつけている水溶液の成分が、筋細胞内のタンパク質にダイレクトに届きます。

そのせいで、直感的には受け入れ難い、不思議なことも起こります。
例えば、誰もが知っている筋疲労ですが、この筋疲労はskinned fiberでは起こらず、
最大強度の収縮を数分間単位で行うことが可能です。
筋疲労というのは、筋収縮を繰り返すことによって生じる化学物質が筋細胞内に蓄積して、
筋収縮機構に悪影響を与えることで生じますが、
skinned fiberは膜 (仕切り) がないので、
筋細胞から出てきた筋疲労物質 (ここでは筋疲労物質が何かは言及しませんが、実は乳酸関連でちょっと実験を行っています)
が筋細胞内に蓄積せずそのへんに流れ出ていくため、
筋疲労が起こりません (ただし筋疲労ではなく、”ダメージ” による筋力低下は生じます)。

メリットとして、好きな成分を、筋細胞の中にダイレクトに送り込むことが出来るので、
例えば、心臓の筋を取り出してskinned fiberにし、
近年注目されている、心筋症の薬 (心臓の働きを調整、すなわち心筋の収縮を調整するもの) の効果をダイレクトに検証する事ができます。
他にも、特定の栄養素や、筋疲労物質の影響も、もちろん調べることが出来ます。
(筋疲労はしない、といいましたが、水溶液全体に筋疲労物質を入れることで、筋疲労を模倣した実験をすることも出来ます)
また、単一の細胞レベルといった小さいサンプルになると、
光学顕微鏡でサルコメアの長さ変化を捉えつつ、力学計測をすることも出来ます。

これらのメリットが有るため、私の研究で最も頻繁に使っている方法になります。
また、筋細胞を単離して筋力計へセットするという工程は、そこまで難しくはなく、
ゴットハンドが必要とされるようなものではないので、
数週間程度の練習である程度形になるというところもメリットかと思います。
簡単ですぐにできる!というわけではないですが、いつか紹介しようと思っている、
①筋原線維の実験、②”細胞膜が生き残った” 単一の筋細胞の実験系は、
数ヶ月単位、場合によっては年単位の練習が必要になるので、それと比べると、skinned fiberはかなり精神的に楽です。。。

以下の写真は、うさぎの大腰筋をskinned fiberにして、クリップで両サイドをとめたものです。
このクリップは、アルミホイルを小さくこの形に切って、筋線維を挟むようにして止めています。
そして四角の穴に、モーターや筋力計の先端につけた針に通して、skinned fiberを固定する、という感じになります。

この実験系に関しては、1ms以下といった高速動作が可能な実験系と、
位相差顕微鏡下でサルコメア長を計測しながら力学計測を行う実験系の2つが揃っており、
次に紹介予定の、ラット生体を対象とした実験系と並び、もっとも力を入れて実験を行っているものになります。skinned fiber

 

今年も終わりに近づき、振り返ってみるとブログの更新が全く出来ておらず情けない限りです。

8月からロンドンに滞在するということもあり、その対応、準備が大変だったのですが、
他にも、人生初となる、救急車で運ばれてそのまま入院、という出来事もあり、
(現状、大したことはないので、ご心配なさらないようお願いします)
かなり慌ただしい一年となってしまいました。

ロンドンに来てからはある程度持ち直し、
やっと研究が出来る環境になりましたので、
気持ちを切り替えて実験を行っています。

自身の予定している実験は、
骨格筋のskinned fiberという、細胞膜を除去して、筋収縮をカルシウムイオンでダイレクトに制御できる実験系を用いて、
その時のミオシンヘッドの構造変化 (角度変化) を、蛍光偏光を利用してミリ秒オーダーで計測するというもので、
多数の工程があり、今はそれを頑張って習得しようとしている状況です。

これが私の計画していた実験だったのですが、
運良く、他のプロジェクトも経験させてもらうことができ、
その中で、こちらも初めてとなる、ラットの心筋、マウスの長趾伸筋の採取、
およびそれらを用いた力学計測も経験させてもらうことが出来ました。
(実験のタイミング的に、むしろこちらを最初に習得することになり、ある程度本実験にも貢献することができました)
特に心筋の力学測定は、私は完全に未経験だったので知らないことも多く、
様々な知識を新たに学ばなければならなかったのですが、
新しい知識を学ばなければいけないということは、自身のレベルアップに繋がると考えていますので、
自分としては、充実した時間でした。
実際、ここで習得した心筋の実験技術を使って、日本に帰国してからやりたい実験計画があり、
既に倫理申請を提出して、実験準備をすすめているところです。

マウスの長趾伸筋 (ほぼ全て速筋) の実験 (ほぼ全て遅筋のマウスのヒラメ筋と合わせることで筋線維組成の影響をみる実験に好都合) は、
実は前から気になっていたので試していたのですが、なかなか上手くいかず苦労していました。
というのも、周りに出来る人がおらず、論文を読んで状況を模倣するという感じで、
誰かがちゃんと実験している (ちゃんとデータが取れている) のを見たことが一度もない状況でしたので、
今回、世界的に有力なラボが実際にしている実験の一部始終を見れたのは、大きな収穫でした。
これは、現ラボのボスとも話していたのですが、
「論文の【方法】セクションは、論文を読んだ人が実験を再現できるように書きなさい、と教わるけれど、
実際問題、特にレベルの高い論文になればなるほど、論文に書かれていないノウハウがたくさんある
(=論文の方法を読んだだけでは実験を再現できない)」
というと、「そうなんだよねー (笑)」という感じでした。

2023年1月からは、基本的には自身の研究テーマの実験全工程を一人で出来るようにし、
実験一つ分を終えられればラッキー、というイメージです。
あとは、溜まっているデータを全て分析、学会発表や論文に繋げるところまでを2023年3月までに終わらせ、
2023年4月に帰国後、春学期は授業が詰まっており、新規で受け持つ授業がかなりありそうなので、
授業対応が中心となり、空いた時間を見つけて、最も力を入れているSPring-8実験だけはなんとか最優先して進め、
夏休み以降から後期にかけては、授業数がグッと減るので、
また研究も再開させる、という感じになりそうです。

あとは、いよいよコロナの規制が収束に近づきつつあり、出張や、対面での学会参加も増えそうですので、
2020年度以降ほとんど動けていなかった分、積極的に動いていこうかなと思っています。
とりあえずは、6月にカナダのキャンモアで開催されるRocky mountain muscle symposium、
8月に福岡で開催されるCongress of International Society of Biomechanics、
9月に開催されるEuropean Muscle Conferenceに参加予定で、
他にも国内学会にも参加出来ればと思っています。
やはり、現地参加するからこそ得られることもあると思いますので。

こんな感じで、2023年はアクティブに動ければと考えています。
ちなみに2022年も、次の月曜・火曜で、最後の実験をやる予定で、
それ以降にもデータ整理や論文執筆をできる限り進めて、
気持ちよく2023年を迎えたいと思います。

良い年末年始を!

 

クリスマスも終わり、2021年もあと5日となりました。
大学も冬休みに入り、オフィスもかなり閑散としています。

2020年から継続しているコロナ問題に加えて、
今年度は授業以外にも、とても大きな仕事を担っていたこともあり、
9月くらいまではまったく身動きが出来ない状態でしたが、
10月からは研究の時間も確保できるようになってきたので、
分析・論文執筆が遅れに遅れていたデータを処理しつつ新しい実験にも着手し、
なんとか2本の論文を投稿して今年の仕事を終えることが出来ました。
(ただし、私の冬休みはもう少し先なので、
もう1本、執筆中の論文も年内に書き上げられるようラストスパートをかけています)

来年度は、短期間ではありますが、
8月からイギリスのキングスカレッジロンドンに滞在し研究を行う予定で、
とても楽しみにしています。
ただ、その分、前期に授業が集中していること、
さらには新規の座学授業が3つ増えるということもあって、
今年度同様、来年度の4月から7月までは全く身動きできなくなると思いますので、
1月から3月の間に、溜まっているデータを全て形にしたうえで、
(良いのか悪いのか、論文4、5本分の取得済みデータがあります・・・)
新しい実験の準備を進めていきたいと思います。

来年も引き続き何卒、よろしくお願い致します。

 

11月6日、7日に、順天堂大学で開催された、
第27回日本バイオメカニクス学会大会に参加してきました。

私の専門はバイオメカニクスですので、
日本バイオメカニクス学会、国際バイオメカニクス学会は、
出来るだけ毎回参加するようにしています。
というのも、普段、一人で研究をしていると、どうしても知識が偏ってしまい、
バイオメカニクス全体のトレンドがわからなくなってしまうからです。

そして、今回の学会では、
私が早稲田に入った時の指導教官である福永哲夫先生が
これまでの研究人生を振り返るという企画がありましたので、
これは絶対にライブで見たいと思い、早期に学会参加を決めていました。

また、今回の学会は、私が大学院生の時の知り合いが多数参加しており、
中には5年ぶり、10年ぶりと、しばらくあっていない人との再会もありました。
(ちなみに座長や質疑応答を担当した人の早稲田率がすごかったです)

最近はオンライン学会にすっかり慣れてしまっており、
実際、対面よりも便利だなと思うことが多々あるのですが、
質疑応答などは、対面のほうが迫力があり、盛り上がり方が違うなと感じ、
やはり対面での学会開催の良さもあるなと再認識しました。

来年は、台湾で開催されるWorld Congress of Biomechanics 2022に対面で参加する予定で、
そちらでは自身の発表も行う予定ですので、
充実したものとなるよう、しっかり準備をして望みたいと思います。

 

トレーニングのテキストブックをみると、
多くの本で筋力アップ目的のトレーニングと、筋肥大目的のトレーニングが記載されています。
これら2つが分けて記載されているということは、
テキストブックの中では明言されていないかもしれませんが、
【筋力アップ目的のトレーニングと筋肥大目的のトレーニングは異なる】
【筋力アップ目的のトレーニングと筋肥大目的のトレーニングは別々に行う必要がある】
ということになるかと思います。
そこで、筋力と筋肥大 (筋サイズ) の関係を考えてみたいと思います。

筋力は、筋が発揮した力ですので、
筋肉が筋力に関連していると考えることは当然だと思います。
これは高校の生物の授業でも習うかと思いますが、
筋力を発揮する、つまり筋を収縮させるためには、
ミオシンフィラメントという糸状のものから突き出たクロスブリッジが、
アクチンフィラメントを手繰り寄せる必要があります。
この時、ミオシンフィラメントの位置は変わりませんが、
アクチンフィラメントが手繰り寄せられることで、
サルコメアと呼ばれる部分の長さが短くなります。
筋とは、このサルコメアが直列、もしくは並列にたくさん並んだものですので、
サルコメアが短くなれば筋も短くなる、つまり筋が収縮する、となります。
これが筋力発揮の源となります。

次に、この筋力を大きくする方法を考えたいと思います。
サルコメアの収縮が筋の収縮ですので、
力強く筋を収縮させるためには、力強くサルコメアを収縮させれば良い、ということになります。
それでは、力強くサルコメアを収縮させる (力強くアクチンフィラメントを手繰り寄せる)
ためにはどうしたらよいかというと、一番先に考えられるのは、
アクチンフィラメントを手繰り寄せるクロスブリッジの数を増やすことです。
ただし、これは私の知っている範囲では出来ません。
それでは次に、一個のクロスブリッジが発揮できる力を大きくする、
ということですが、これは “一定” というわけではないのですが、
基本的に5-10nNあたりの範囲で一定、と仮定して頂ければと思います。
つまり、クロスブリッジの数や、1個のクロスブリッジが発揮できる力を
変化させることは難しいので
仮にAさんとBさんからそれぞれ一個のサルコメアを取り出してきて、
それぞれの筋力を計測すると基本的に同じになります。

それでは、どこで筋力の差がでてくるのか?という話になるかと思いますが、
それは筋のサイズ (サルコメアの数) になります。
サルコメアが短縮することで腱を引っ張り、
最終的に骨が動く、つまり身体運動が生じるということになりますので、
筋力を大きくするためには、いかに強く腱を引っ張るかが重要になります。
この時、腱を多数のサルコメアで引っ張れば、力強く腱を引っ張ることが出来ます。
これは、綱引きの時に、たくさんの人間で引っ張ったほうが強く引けるということと同じです。
ただし、(等尺性収縮時の筋力と考えた場合)、
サルコメアが縦に (直列に) 繋がってしまうと筋力が加算されないので、
筋力を大きくするためには、サルコメアが横に (並列に) 繋がる必要があります。
これがサルコメア数と筋力の関係になります。

(仮に、サルコメアが全て並列方向に増える、という前提をおくと)
そうなると、
仮に筋が10%大きくなると、筋力も10%大きくなる、という計算になります。
つまり、筋力と筋肥大は極めて強い関連があります。
(基本的に同じように変化するはずです)。

ただし、例外もあり、例えば10個の筋肉を持っていても、
神経系が、「8個だけしか収縮出来ない程度の司令しか筋肉に送らない」となると、
筋サイズ (並列に並んだサルコメア数) が同じでも、発揮できる筋力は変わってしまいます。
上記の場合であれば、10個中、2個が休んだままだからです。
そういう意味では、【筋肥大目的ではなく筋力アップ目的 (神経系のトレーニング)】の
トレーニングも存在しうるかと思いますが、
仮に神経系が、10個の筋を全て使えるような刺激を送れるのであれば、
それ以上、神経系要因で筋力がアップすることはないので、
特に鍛えれば鍛えるほど、【筋力アップ=筋肥大】に近づいていくと思います。

このように筋力と筋サイズは極めて強く関連しますので、
基本的に筋肥大を求めていけば、筋力は向上するし、
筋力を上げるためには、筋を肥大させていくことになります。
厳密に言えば、【 (サルコメアの数は同じだけれども) 筋内の水分量の変化によって
筋サイズが変化した】とかであれば、当然、上記の筋力と筋サイズの関連は崩れていきます。
ただし、これはかなり特殊な状況下ですので、
基本的には筋力アップは、筋サイズのアップと似てくるのかと考えています。
このようなことも有り、【神経系のトレーニング】とは、
種々の筋、運動単位を動員するタイミングや程度を、
自身が改善しようと考えている動作に望ましいものに近づけていく、
という感じに近いのかなと思います。

今回は前回の続きで、股関節内転筋群の股関節伸展作用について紹介したいと思います。

前回、股関節内転筋群は、股関節角度によっては股関節伸展のモーメントアームを持つので、
股関節伸展動作にも貢献しうると紹介したかと思います。
これは、機能解剖をとても詳細に解説している本であれば、
記載されている内容かと思います。

ただし、今から紹介することは、
私の知る限り、一般的な書籍では記載されていることを見たことがありません。
それは、
【股関節内転筋群が股関節伸展のモーメントアームを持つ関節角度で、
本当に股関節内転筋群が股関節伸展時に活動するのか?】
ということです。

これまで紹介したように、股関節内転筋群は、特定の関節角度 (股関節屈曲位) では、
股関節伸展のモーメントアームを有するようになりますので、
幾何学的に考えると、股関節内転筋群は股関節伸展に貢献する、と考える事ができます。

ただし、股関節伸展のモーメントアームを持つからといっても、
股関節伸展時に股関節内転筋群が一切活動しなければ、
もちろん、股関節伸展に貢献することはありません。

なので、股関節内転筋群が股関節伸展動作に貢献するためには、
股関節内転筋 (それを支配している中枢神経系) が、
「お、今、股関節角度が変わって、股関節内転筋群が股関節伸展にも貢献するようになったので、
ここからは股関節内転筋群も動員しよう!」
という判断をしている必要があります。

このような、”関節角度 (正確にはモーメントアーム) に応じた筋の収縮制御” が存在するのかは、
私の知る限り、全く解明されていないと思います。
仮に、もしこのような機序が存在するならば、
単純な機能解剖のみからでは筋の関節運動への貢献を明らかにすることが出来なくなってしまいます。
このような考え方は既存のレジスタンストレーニングでは全く考慮されていないと思いますし、
状況に応じた筋の動員調節ができるかどうかは、
【運動の巧みさ】の鍵ではないかも考えていますので
(動作練習をすればするほど、その時に必要な筋を動員できるような神経回路が作られる!?)、
今後の研究テーマとして非常に面白いと考えています。

今日は機能解剖学に関するトピックを紹介したいと思います。

股関節内転筋は、その名の通り、股関節を内転する (股関節を内側に閉じる) 作用を持っています。
これは、どの機能解剖のテキストにも書いてあり、私もそれを信じて疑わない作用です。

ただ、私が昔から思っていたのは、
股関節内転という動作は、日常生活ではほとんど使われない動作ということです。
例えば、今、みなさんが立って股関節を外に開いた状態から閉じるとき、
つまり股関節内転をする時、内転筋に力を入れなくても足の重さで自然に股関節が内転していきます。
つまり、このような状態では股関節内転筋を収縮させる必要がありません。

このようなあまり日常生活に使われない股関節内転動作ですので、
股関節内転に貢献する股関節内転筋群はそんなに発達している必要がない、
そんなに大きくない筋な気がしますが、
実際にMRIで股関節内転筋群を見てみると、
股関節内転筋群は非常に大きいことがわかります。
感覚的にはハムストリングスと同程度の大きさというイメージです。

そんなに需要がない股関節内転動作を担当する股関節内転筋群が
とても需要がある股関節伸展・膝関節屈曲を担当するハムストリングスと同程度の大きさというのは、
直感的には奇妙な結果です。

そうなると、【股関節内転筋にはそれ以外の作用があるのではないか?】
という疑問が湧いてきます。

股関節内転筋群は恥骨 (骨盤の下) についています。
この付着部 (筋の走行) と股関節の回転軸の位置関係で、
股関節内転筋群がどのような作用を持つかが決まります。
股関節内転筋群の走行は股関節の回転軸から下の方にあるため、
股関節内転筋群が収縮する (短くなる) と股関節が内転する、という流れです。

この点に関しては全く異論はないのですが、もう少し筋の走行を詳しくみていくと、
仮に今、股関節を屈曲 (もしくは骨盤を前傾) させると、恥骨と筋の走行の位置関係が少し変わります。
大腿骨に対して恥骨が後ろの方にいきますので、
筋の走行が股関節の回転軸よりも後ろを通るのであれば、
股関節内転筋群は股関節内転だけでなく股関節伸展にも貢献するようになります。
これは知らなかった方もいるのではないかと思います。

そうなると、股関節伸展動作は日常動作やスポーツ動作問わず、頻繁に用いられる動作ですので、
股関節内転筋群が大きい、肥大しているのも理解出来ます。

このように、筋の作用というものは、回転軸と筋の走行の位置関係で決まってきますので、
姿勢、関節角度によっては機能が変わることもあります。
その一例として、【股関節内転筋群は股関節伸展に貢献しうる】ということを
紹介出来ればと思いました。

ただし、次回は、やや混乱させてしまうかもしれませんが、
【本当に股関節内転筋群は股関節伸展に貢献するのか?】
という、私が持っている疑問を紹介したいと思います。

 

今回は、私が筋力トレーニングに関して疑問に思っていることの一つ、
超回復に関する内容を紹介したいと思います。

一般的に筋力トレーニングを行う時、
例えば月曜日に下半身の筋力トレーニングを行うと、
次回の下半身の筋力トレーニングは、翌日の火曜ではなく、
例えば2,3日空けた木曜、金曜、もしくは翌週の月曜日に行うことが多いと思います。

これは、超回復理論というものがあり、
筋肉は、筋力トレーニングをした直後には一時的に破壊され、
2,3日の休息をおいた後に、筋力トレーニングの前よりも
筋肉が大きく、強くなると考えれています。
以前の強さに “回復” するだけでなく、以前よりも強くなるので “超回復” ということかと思います。

これは広く知られていて、
かくいう私も、筋力トレーニングは2,3日のインターバルを挟んで行っています。

ただし、世間には、このような理論に合わないようなトレーニング戦略があり、
かつ、そのトレーニング戦略で世界チャンピオンになったような人がいます。
このトレーニング戦略は、エブリデイ、エブリベンチというもので、
基本的に毎日ベンチプレスを行うというものです。
私が以前通っていたジムでみたことがあるのは、平日の朝と夕方にジムに来て、
毎回ベンチプレスを行っている、というものです。
単純計算で、一週間に10回のベンチプレスです。
これは直感的には異常に見えますし、
私も自分のトレーニングとしては取り入れたことがないのですが、
研究者になって論文を読んでいく中で、これと似たようなケースをみつけました。

これは、動物実験で、筋肥大を生じさせた上で、
それに関連する何かを検証する時に用いられている方法です。
このタイプの実験では、大前提として明確な筋肥大を生じさせないと、
そもそも検証したいものが検証できない状況になってしまうので、
確実に筋肥大が生じる方法を使うことが基本になります。
その時に使われる方法が、協働筋の切除という方法です。

具体的には、例えば足部の曲げ伸ばしを担う下腿三頭筋を対象にすると、
下腿三頭筋のうち、腓腹筋を切り落としてヒラメ筋だけにする、というものです。
残されたヒラメ筋は、これまでは腓腹筋が担っていた足部の曲げ伸ばし機能も担う必要が出てくるため、日常生活を送るだけでも通常では得られないような負担がヒラメ筋にかかります。
そうなると、日常生活でさえも筋力トレーニングになるため、
筋肥大が生じる、という理屈です。

最初にこれを聞いた時は、「そんな方法もあるんだな」程度にしか考えていませんでしたが、
よくよく考えてみると何かおかしいことに気づきました。
これは、日常生活そのものが負荷になっている、
つまり筋力トレーニングになっているということなので、
筋力トレーニングを超回復を待たず、毎日行うということになります。
むしろ、毎日というよりも、起きて動いている時はずっと筋力トレーニングを続けている、ともいえます。
そうなると、筋肥大の基本とも考えられている、超回復の理論が崩れているようにみえます。

これはどういうことなのでしょうか。
現状では、私はこの理由を説明することが出来ないのですが、
一つだけ確実にいえるのは、
【この方法は顕著な筋肥大を起こすために頻繁に用いられる方法】ということです。
ですので、私は、これは偶然といったものではなく、
明確な筋肥大が生じる妥当な理由、メカニズムがあると思っています。
ただし、現時点の科学では説明できない、ということだと考えています。
そうなると、”超回復” という、トレーニング業界では当然のように使われてきた言葉も、
再検討の余地があるのかもしれません。

このような研究にも発展しそうな着眼点は、
“エブリベンチ” といった現実世界で実際に使われているトレーニング戦略から
得られることもあると考えていますので、
このあたりでうまくトレーニング指導の現場と研究が繋がればいいなと思っています。

前回は、論文に関して、私の情報収集、整理方法を紹介しましたので、
今回は本について紹介したいと思います。

まず最初に、論文と本、どちらを読むべきかについて、私の考えを紹介したいと思います。
私は、トレーナー等になるためにスポーツ科学を学びたい大学生はもちろん、
将来は研究者になろうと思っている大学院生にも、
論文ではなく本 (アマゾンで変えるようなテキストブック) を勧めています。
これはなぜかと言うと、論文は本よりも情報の質や価値は高いかもしれませんが、
論文を一本読んで得られる知識とテキストブックを一冊読んで得られる知識の量があまりに違うため、
時間効率を考えると、まずはテキストブックを読んで、
その分野の知識を一通り身につけることが先決だと考えているからです。

私も、自分の興味ある分野で新しい本が出ないかは常にチェックしていて、
自分が登録しているキーワードに関連する本が出版されたらアラートが届くようにしています。

これらの本は片っ端から購入して読みたいところではあるのですが、
以前と比べると読書に使える時間が減ってしまっているため、
厳選して本を購入するようになっています。

この選別の基準としては、まずは著者を確認するようにしています。
本と論文の大きな違いは、論文は著者が書いた内容を、
第3者である、関連分野の専門家が内容を吟味、審査した上で出版されている一方で、
本は必ずしも専門家の吟味がされていないということであり、
必然的にクオリティーの差が大きくなる傾向があります。
正直な所、よく読むと、ひどい間違いを連発している本や、誤植の嵐といった本も存在しており、
これは皆さんも感じていることだと思います。
こういう本が厄介なところは、
このような間違いはそれ相応の専門家がそれなりの時間をかけて読むと見つけられるのですが、
その分野に精通しておらず、まずはその分野の基礎知識を全体的につけようと思っている人が読むと、
そのような間違いを見つけるのは難しく、それが正解だと思いこんで読み進めざるを得ないということです。

なので、このような事態を避けるために、まずは信頼出来る人が書いている本、
もしくは信頼できる人が勧めている本を読むのが良いと思います。
私はこれをかなり重要視しています。

加えて、その本の誤植一覧表が公開されているかどうかも一つの基準だと思います。
誤植は無いに越したことはないですが、
100ページを超えるような本で誤植をゼロにするのは非常に難しいということも分かっているので、
誤植があるということは前提に、
誤植が見つかった時の対応が出来ているかどうかが重要だと考えています。
ちなみに私が授業で参考にしている本は、誤植一覧表が出ていないか
必ずチェックするようにしています。

このような確認をしたうえで、
あとは自分が必要としている内容かどうかを出来る範囲でチェックして
本を買うようにしています。

私はバイオメカニクスだけでなく、機能解剖学や運動生理学、栄養学なども興味があるので、
たくさんの本を読みたいという気持ちはあるのですが、
論文と同様、全ての本を読むというのは時間的に不可能ですので、
必然的に選別する必要があると考えています。
私のような、デスクに座っている時間が長く、仕事の一環で本や論文を読まざるをえない人ですら
このような状態であり、トレーナーや理学療法士といった、現場での指導がメインの方は
より一層、読書にさける時間は限られていると思いますので、
限られた時間の中で最大限の効果が得られるような方法を模索してもらえればと思っています。

 

 

 

今回は、私がどうやって論文から情報収集をしているかを紹介したいと思います。
現時点ではこれが自分なりのベストかとは思っていますが、
常により良い方法を探しているので、
もっと効率の良い方法やアプリを知っている方がいましたら、
是非、メールで教えていただければと思います。

研究者は、論文を書くことが一番の仕事であり、
論文を書くためには、これまでの関連論文を把握しておく必要がありますので、
多くの論文を読む必要があります。
また、今では研究者ではない方でも、論文をかなり読み込んでいるような方もいます。

ただし、出版される論文の数は莫大であり、
仮に “スポーツ科学”、その中の “バイオメカニクスに関するもの” だけに絞っても、
到底、全てを読み切ることは出来ません。
そこで、いかに効率よく、自分が必要とする情報、知識をなるべく多く収集するかというのは、
私だけでなく、多くの人が考えていることです。

また、一度読んで内容を全て覚えることが出来れば理想的ですが、
これも現実的には不可能だと思いますので、
次善策として、出来る限り内容を覚える努力をしつつも、
あとからその情報がすぐに探せるようにしておくことが重要だと思っています。

そういう意味では、
Endnoteといった文献管理ソフトを使うことは必須だと思います。
このようなソフトを使えば、論文のタイトルや著者で検索したり、
論文の内容・種類を表すタグを付けてグループ分けすることも出来ます。
ちなみに私は、修士課程の時は文献管理ソフトを持っていなかったので、
論文を印刷して読み、その論文をテーマごとにファイルに入れて管理していました。
紙には紙の利点があったのですが、量が膨大になってきてしまい、
オフィスデスクの棚には収納できなくなって扱いに困り、
文献管理ソフトを導入し、印刷せずにPDFで論文を読み、
データで保管するようになりました。

文献管理ソフトの導入が遅れた理由としては、
文献管理ソフトの値段が高いということもあります。
ただし、今ではMendeleyといった無料で使える文献管理ソフトもあるようなので、
学部生や大学院生はもちろん、トレーナーなどで論文を読む人も
すぐに文献管理ソフト導入をオススメします。

文献管理ソフトは、自分が使いやすいと思うものであれば何でも良いと思いますが、
あえていうと、複数のPCでデータを同期出来るものが良いと思います。
というのは、例えば職場で論文PDFを読んで(PDFにメモ書きなども入れて)、
職場のパソコンに保存するだけでなく、場合によっては自宅や出張先など、
別のPCで論文PDFを読みたいときもあると思います。
その場合、複数のPCにインストールした文献管理ソフト間でデータが同期できなければ、
「あれ、最近論文PDFに重要な点を書き込みしたはずなのに、
論文PDFに何も書かれていない!?」
ということが起こる可能性があり、
こういう小さい問題でも積み重なってくると、
論文を読む気力が失われてしまいますので・・・。

あとは、論文の読み方に関し、
基本的にはほとんど英語論文を読むことになると思います。
これは、論文を書く研究者の視点で考えると、
論文の内容が全く同じだとしても、
日本語で書くと日本人しか読めず、英語で書くと世界中の人が読めるため、
英語で論文を書いたほうが必然的に論文の価値は高くなり、
良い論文、最先端の論文は英語で書かれることがほとんどだからです。

英語論文を読むためには、難しい英単語との戦いになるので、
英語力を高めることが最優先とは分かりつつも、
常に辞書を引きながら英語論文を読み進めていくことになると思います。
この作業がかなり骨が折れるので、何かいい方法はないかといつも考えています。

そこで、現在私が落ち着いているのは、英辞郎というオンライン辞書を使う方法です。
英語論文には専門的な単語がたくさん出てくるので、
高校の授業で使うような英和辞典では対応しきれないと思います。
一方で英辞郎は、収録単語数が異常に多く、今もどんどん増え続けているので、
英語論文の専門用語でもかなり戦えます。
(もし英辞郎に掲載されてい単語に出会った時は、
「これは知る必要のない単語だ!」と考え、潔く無視しています・・・)
このオンライン辞書を使う時、論文を印刷して紙で読んでいたときには、
分からない英単語のスペルを見ながらオンライン辞書に手入力していたのですが、
PDFで読む時にはコピペ出来るので、
これもPDFで文献を管理するメリットだと思います。

ただ、この方法もなれてくると、
①論文PDFの知らない単語を選択して、
②コピーし、
③英辞郎の検索ウィンドウに貼り付けて
④検索ボタンを押す
という作業も煩わしくなってきて、
なんとかこのプロセスを簡略化出来ないかと考えていた時、
英辞郎をPCにインストールしアプリを起動させておくと、
論文内の英単語を選択してコピーするだけで、
日本語の意味がポップアップウィンドウで出てくるという機能を見つけ、
即座に飛びつきました。

(他にも、単語の上にカーソルをもっていくだけでも意味が出てくる機能もあるのですが、
私はコピーしたときのみ反応する設定のほうが使いやすいので、こっちを使っています)

上記の④プロセスの2つを省略するだけなのですが、
(しかも省略できる2つの動作は、貼り付けして、検索ボタンを押すだけというもの)
これが何回も繰り返されるとなると、
大きな違いになると感じています。

また、コピーをするためには[ctrl+C]をキーボードで入力する必要がありますが、
この動作も煩わしく、なんとか簡易化出来ないかと考え、
キーボード入力がプログラミング出来るマウスを買って、
マウスのあるボタンを押すだけで[ctrl+C]を入力したときと同じ動作が出来るようにしておき、
マウスのクリックひとつで英単語の意味が表示できるようにしています。
これなら、片手だけで、英単語の意味を調べながら論文を読み進めていくことが出来ます。

今回紹介したのが、
私の論文の管理、論文の読み方になります。
参考にできるところは参考にしていただき、
「もっとうまい方法があるよ!」という方は、是非、メール等で教えて頂ければと思います。
ちなみに今の個人的な課題としては、
タブレットでも上手く論文を読める環境を構築することです。

 

1月9日、10日、11日に、2年に一度、日本サッカー協会が開催している
フットボールカンファレンスに参加してきました。
といっても、他の学会と同様、オンラインでの参加となりました。

フットボールカンファレンスは、
これまでも何回か参加しようと思っていたことはあるのですが、
1月前半の土日月に二泊三日で開催されるという日程の問題や開催場所の問題もあり、
一度も参加したことがなかったので、
オンラインで受講できる今回が初参加となりました。

このカンファレンスは、選手というよりも指導者を対象としたものであり、
指導者のレベルを高めて、より優れた選手をより多く育てることで、
結果的に日本のサッカーレベルを高めていこうというものになっています。

こういうセミナーを受けていると改めて思うのですが、
サッカーは他のスポーツと比べると、
育成システムがとても整備されています。

プロチームにはジュニアやジュニアユース、ユースといった下部組織が有り、
小学生からプロを目指した一貫教育をすることが出来ますし、
プロの下部組織だけでなくても、
特定の大会で優勝することを主目的としたトーナメント方式の大会だけでなく、
育成を視野に入れて試合数を確保するリーグ戦が用意されています。
また、指導者はコーチングライセンスの取得が必要となっており、
そのレベルもD、C、B、A、Sと段階別に分けられています。
このような育成システムが全国レベルで機能している競技は
日本ではサッカー以外にはないと思います。
練習環境もどんどんよくなっており、
私が子供の頃は芝生でサッカーが出来る機会はほとんど有りませんでしたが、
今は高校でも普段から人工芝で練習できるチームも増えています。

なお、カンファレンスでは、
日本代表の監督経験者である岡田監督と西野監督が
FIFA世界ランキングについて話をしていたシーンがあり、
日本代表は一時的にですが、FIFA世界ランキングが14位まであがっていたことがあり、
それに対して「そんなことはないよなぁ (日本より強いチームはもっとある)」
といった話をしていたので、少しに気になって調べた所、
日本代表の過去最高は9位 (1998年) ということでした。
ちなみに、この時の、現時点でのFIFA世界ランキング世界1位のベルギーは31位にとどまっており、
その近辺では50位付近でウロウロしているといった感じでした。

そう考えると、「日本もこれから世界1位を獲るチャンスは十分ある!」と考えるのか、
それとも「このランキングの付け方ってどうなの?」と考えるか、
難しいところです。

 

2020年もいよいよ終わりになりました。
今年起きたことといえば、やはりコロナウイルスがらみのことかと思います。
幸い、私の近しい人で感染が判明した人はいませんが、
仕事や生活で様々な制約をうけました。

まず、スウェーデン、カロリンスカ研究所での滞在研究スケジュールを変更せざるを得なくなり、
時間的にも金銭的にも苦しい状況となりました。

日本に帰国してからは、前期の授業をどうするかということで、
話が二転三転し、最終的には対面授業ではなくオンライン配信するということになり、
まずは撮影機材を自分で買い揃えて、
人がいない夜中の24時以降にビデオを取り始め、
日中はビデオを編集して配信、
そして毎授業で提示した授業課題、感想文のチェック、採点、
(1週間での延べ受講者数は600人くらいいたので、毎週600個の採点作業・・・)、
という感じで、「これを遅れなくやりきることが出来るのか!?」という
不安に日々襲われていました。

これに加えて、他にも大きなプロジェクトに参画することとなり、
これは現在も続いていますが、かなり大変なものとなっています。

このような状況も有り、前期は自分の研究をする時間はまったくありませんでした。
これまではこのような状況を経験したことはなく、
若手研究者であり、これからも研究成果を積み重ねていく必要がある私としては、
焦りしか無い状況でした。

前期の授業が終わった後は、時間が出来てきたので、
新しい実験を始める前に、
まずは前期に引き伸ばしに引き伸ばしていた
自分の過去の実験データ分析や論文執筆を終わらせるようにしました。
結果的には、2018年の夏に実施した実験2個が論文採択までたどり着き、
実験データの分析、論文執筆が終わっていないものは
2019年度に行った2つの実験のみというところまで進みました。
これらは2021年の1月から3月になんとか論文執筆まで持っていければと考えています。

あとは、今年行った唯一の実験があり、
これは大型放射光施設SPring8を使った、
見ているものは極めて小さいけれども実験規模 (手間) は非常に大きい大変な実験です。
これは私が今、最も興味を持っていて、一番力を入れている研究ですが、
形になるまでは数年かかると思いますので、
忍耐強く進めていかなければなりません。
ちなみにこの実験は、機器が使える日が限られており、
実際に実験を行ったのは11月に1回と、12月に1回の2日のみで、
この実験が、私が今年行った唯一の実験です・・・。

このように振り返ってみると、
時間がなく、自分が思い描いていた成果が出せていない年になってしまったなという感じです。
コロナもあったので仕方がないと思う部分はありますし、
他にも私と同じように研究を止めざるを得なかった人もいるのですが、
その一方で、コロナでむしろ時間が出来て、
逆にいつも以上の成果が上がっているという人もいますので、
この状況を言い訳にすることなく、
この状況下でも出来ることを考えて
研究を進めていかなければならないと反省しています。

2021年は、まずは最も重要な仕事である教育活動をしっかりこなし、
時間を見つけながら自分の研究も進めていこうと思います。
このWEBサイトでも、新しくやりたいことはいろいろありまして、
たとえば、実際に私の研究ではどんなことをやっているのかを写真付きでもっと詳しく紹介したり、
最新の面白いトレーニング関連、スポーツ関連の論文を月一回程度で定期的に紹介するなどです。
論文紹介は以前からやりたかったのですが、著作権の問題でいろいろ悩んでいて、
弁護士にも相談したことがあり、人によっては法に触れかねないという返事もあったので、
踏み切れなかったのですが、
最近流行っているオープンアクセス (ネット上でだれでも無料で論文が読める状態のもの) は
契約条件によっては自由に引用できるようなので、
それを中心に始めていこうかと考えています。
他にも何か、こういうものがあれば良いんじゃないかというご意見がありましたら、
メールか問い合わせフォームからでも大丈夫ですので、教えて頂ければ幸いです。

ここに記載したような2020年の反省、やりたいことはたくさんあることを踏まえると、
2021年は、【動く】ということをテーマにやろうかなと考えています。
2020年は、「コロナで状況がいつもとは違う」ことを言い訳にして、
積極的に動けなくても仕方がない、という気持ちがどこかにあった気がしますので、
しっかり頭を切り替えて、2021年は現状でのベストを尽くすようにしたいと思います。

 

今回は、筋力トレーニングの勉強をする時によく耳にする、
「今、鍛えている筋肉を意識する」ということを考えてみたいと思います。

これは、例えばスクワットをやって下半身を鍛えているときに、
何も意識せずにやるよりも、鍛えている下半身の筋肉を意識して行ったほうが
トレーニング効果が高くなる、ということを意味しているのかと思います。

これだけ聞くと、たしかにそんな感じがしますし、
逆に足の筋肉のことを一切考えずにスクワットで追い込んでいる人は
おそらくいないと思います。

ただ、
「それでは、同じトレーニングをしていても、
筋肉を意識するかしないかで、トレーニング効果が変わるのか?」
といわれると、少し疑問が湧いてきます。

例えば、今、同じ重さで10回のダンベルカールを
①筋肉 (上腕二頭筋) を “意識しながら” 行う時
②筋肉 (上腕二頭筋)を “極力意識しないように” 行う時
とで、効果が異なってくるのでしょうか?
個人的には、違いは出ないような気がします。
なぜならば、意識の有無によらず、
“同じ負荷が筋肉にかかっていれば”、
筋肉への刺激、トレーニング効果も同じになると考えられるからです。
もちろん、しっかり意識したときと意識していないときとで
使用重量や反復回数などが変わってくれば話は別で、
負荷が異なると当然トレーニング効果も異なると思います。

これに少し似た話で、”マッスルコントロール” というものがあります。
これは学術的な用語ではありませんが、
トレーニング業界では常識ともいえるくらいよく耳にする言葉で、
「自分の好きなタイミングで筋肉の収縮をコントロールする」
といった内容かと思います。

ボディビル競技のポージングの時 (特定の筋肉を収縮させたい時) などに
よく使われているような気がします。
このようなことは、もちろん可能だと思いますし、
椅子に座ってパソコンをしている今の私でも、
胸の筋肉を収縮させることは出来ます。

ただし、私が疑問に思っているのは、
例えばベンチプレスのトレーニングを行う時に、
「大胸筋ではなく上腕三頭筋をメインに鍛えたい」、
デッドリフトを行う時に、
「脊柱起立筋ではなくハムストリングスをメインに鍛えたい」、
と考えた時、
“フォームや扱う重量を変えずに、意識を変えるだけで”、
鍛える場所を変えることが出来るのかどうか?ということです。

これは、特にトレーニング上級者の方であれば、
経験的には「出来る!」と感じている方もおられるかと思いますが、
私の知る限り、研究的 (実験的) にこれをうまく実証しているものはないと思います。
仮に、特定の動作を達成する時に、意識するだけで使う筋肉を変えるという技術を
確立することが出来れば、それは非常に有用な技術だと思います。
例えば、肉離れをした際、特定の動作をする時に、
肉離れをした筋肉はほとんど動かさず、その他の筋肉で動作を代償出来る可能性があります。
ですので、この “マッスルコントロール” が出来ることを証明できれば、
それは非常に有意義な研究だと思います。

ただ、マッスルコントロールといった “意識の有無” による現象を実験的に検証する時に難しいのは、
“本当に意識していたかどうか?” を確認することが極めて難しいということです。
「先程の動作中に、あなたは本当にこの筋肉を意識していましたか?」
と聞いて確認するぐらいしか方法がなく、
客観的に確認することは残念ながら不可能だと思います。

このように難しい (もしかすると不可能!?) とはわかっているのですが、
トレーニング愛好家の一人としては非常に興味あるトピックですので、
「”マッスルコントロール” が実際に出来るのか?出来ないのか?」は
(仮に検証結果が「マッスルコントロールは出来ない、都市伝説だった」でも構わないので)
是非、だれかに検証してほしいと思っています。 

前回は、固有受容器の話を紹介しましたので、今回はその繋がりで、
“筋紡錘” という固有受容器に関する話を紹介したいと思います。

筋紡錘とは、筋の中に存在する固有受容器で、
筋が引き伸ばされたとき、放っておくとそのまま筋が伸びすぎてちぎれてしまうかもしれないので、
「筋を縮ませろ」という司令が筋紡錘から発せられます。
そうすると、筋が縮む、つまり力発揮が促通される、ということが起きます。

これは、前回のストレッチ時の話 (ゴルジ腱器官の話) とは逆で、
“リラックス” を促通するわけではなく “力発揮” を促通させるので、
とある動作のパフォーマンスを高めたい時に使うことができそうです。
その最たるものが、反動動作による筋力増強 (stretch-shortening cycle) かと思います。
このstretch-shortening cycleは、私のメインの研究テーマということもあり、
話が長くなってしまいそうですが、ご了承のほど、よろしくおねがいします。

stretch-shortening cycleとは、反動動作 (stretch) を行うと、その後の主動作 (shortening) の
パフォーマンスが増強するという現象です。
これは皆さん、経験的に知っていることで、高く跳ぶときには、いきなり上に飛ぶのではなく、
一度、主動作とは反対方向である下に沈み込んで飛ぶと思います。
この反動動作の局面では筋は引き伸ばされることになります。
そうすると、先程紹介した筋紡錘の働き (筋が引き伸ばされすぎるとちぎれてしまうので、筋が収縮するように司令をだす) が生じ、
その後の主動作 (上の例で言えばジャンプする局面) で収縮が促通され、
より高く飛べるようになります。
これが、トレーニング科学のテキストブックで書かれている説明かと思います。

前回のストレッチの話と同様、この説明だけを聞くと、
「なるほど、反動を使うと高く飛べる理由の一つとしては、伸張反射 (筋紡錘の働き) があるのか」
となると思います。
しかしながら、私は一つ疑問を持っています。
これは前回のストレッチと同じような視点で、
反動を使うと筋収縮が促通されてパフォーマンスが向上するのであれば、
反動を使わない時は100%の筋収縮が出来ていないということになります。
もし仮に、反動を使って筋の力発揮が向上するのであれば、
反動を使わないときは何らかの理由で自身がもちうる力を100%使い切れていないことが
担保される必要があると考えています。
(なお、今回の話は、最大努力、出しうる力を全て発揮している状態) に限定して考えて下さい。
最大努力ではない力発揮を対象とすると、話が変わってきます)

“促通する” という言葉は、便利ではあるけれども注意を要する言葉で、
“今あるものを使えるようにする (0-99%の範囲から (最大でも) 100%にする)” というだけで、
自身が持ちうるポテンシャルを超える力を出すことは出来ない
(100%のものをそれ以上にすることは出来ない) ことを考える必要があると思います。

そういう意味で、私は伸張反射がstretch-shortening cycleに効果があるとするならば、
最大努力ではない、反動を使ったリズミカルな運動を行う時ではないかと考えています。
現在の私の研究は「最大努力、最大強度」を想定したものということもあり、
正直、伸張反射には重きをおいていませんが、
経験的には、特に理学療法士が行うようなリハビリテーションで
特定の運動を覚えさせる、思い出させるようなときには
伸張反射 (筋紡錘) を活用することに意味があるのではないかと考えており、
個人的には、この辺りも研究が発展して欲しいトピックです。

前回、柔軟性について私の考えを紹介しましたので、
今回も柔軟性に関連するトピックにしたいと思います。

柔軟性を向上させるためにストレッチを行っている人は多いと思います。
このストレッチは、筋肉を伸ばすことでより筋肉が伸びやすくなる、
つまり関節可動域を大きくすることを目標として行っている人が多いかと思います。

現在、もっとも普及しているストレッチは、
反動をつけず、筋肉をジワーッとゆっくり伸ばしていくストレッチである、
スタティックストレッチかと思いますが、実は他にも何個か方法があります。
たとえば、ある程度反動をつけながら行うダイナミックストレッチというものもありますし、
少し専門的になりますが、神経と筋の繋がりを考慮して行うPNFストレッチというものもあります。
今回は、このPNFストレッチについて私の考えを紹介したいと思います。

PNFストレッチのPNFはProprioceptive Neuromuscular Facilitationの省略であり、
proprioceptive = 固有受容器、neuromuscular = 神経-筋、facilitation = 促通、
つまり、固有受容器を活用して神経と筋の繋がりを促通し、それをストレッチに活かす、
という考え方だと解釈しています。

PNFストレッチとは、単純に筋を伸ばすのではなくて、まず一度、目的とする筋を “収縮” させ、
収縮をやめた後、リラックした後に筋を伸ばすと、いつもより伸ばしやすい、というものです。
筋を伸ばす前に収縮させる理由としては、筋収縮によってゴルジ腱器官という固有受容器が刺激され、
そうすると筋が壊れないように筋を強制的にリラックスさせるような反応が出ますので、
この筋が強制的にリラックスしている時にストレッチを行えば、普通にストレッチするよりも
筋をしっかり伸ばせることが挙げられます。
これがPNFストレッチは通常のストレッチよりも効果が大きい理由と考えられています。

これを聞くと、「それならPNFストレッチがベスト!」、という考えになり、
実際、私がパーソナルトレーナーとして働いていたときには
このPNFストレッチを多用していました。
そんな経験もある中、大学院で筋、神経の勉強をしていた時にふと思ったことがあります。
それは、
「PNFストレッチが効果的なのは筋のリラックスを促すことが理由だが、本当に筋をリラックスさせる必要があるのか?」
ということです。

これはどういうことかというと、
「PNFストレッチでは、ゴルジ腱器官の助けをかりて、普通にストレッチするよりも筋をリラックスさせている、と考えられているが、
逆に言えば、普通にストレッチするときには、筋は完全にリラックス出来ていないのか?
もし仮に、普通にストレッチした時でも筋が100%リラックス出来ているのであれば、
PNFストレッチをしてリラックスを促通しても、リラックス度100%が100%になるだけで意味が無いんじゃないか?」
ということです。
もし普通にストレッチを行った時に、収縮させたくないのに筋がどうしても収縮してしまう、
というのであれば、理屈的にはPNFストレッチが効果がありそうです。
一方で、普通にストレッチしたときも筋が十分リラックスできているのであれば、
PNFに限らず “リラックスを促通させる” という手段は必要ないと思います。
つまり、まず証明すべきは、
「通常のストレッチ時に、筋は (多少なりとも) 興奮・収縮しているのかどうか?」
ということだと考えていて、これが無い限りはPNFストレッチで効果が出る理由が説明できないと考えています。
この点は、PNFストレッチを何回も行ってきた人間としては、
是非とも答えが知りたいところであり、特にPNFストレッチをしたことがあって、
私と同様の興味を持って解明してくれる人がいればと思っています。

なお、PNFはPNFストレッチだけではなく、リズミックイニシエーションや対角螺旋といった、
他にも様々なテクニックや考えがあり、これらは神経と筋の連動が上手くいかないような人の
リハビリテーションとして考え出されたものであり、
コンセプトとしては非常に面白いので、興味ある人は是非、PNFに関する本を読んでみて下さい。

今日は、私が興味のある、「柔軟性」についての疑問を紹介したいと思います。
柔軟性は、競技スポーツをする時だけでなく、
一般的な日常生活動作にも必要となる時があります。
例えば、両足を揃えて立った状態から、両足のカカトを地面につけたまま、
膝を曲げていって座るような姿勢をとろうとすると、
柔軟性がない人は、おそらくカカトが地面から浮くか、
後ろにコケるかのどちらかになると思います。
というのも、私が実際にそうなるので良く分かります。

これはおそらく、足首 (下腿三頭筋) が固いため、
スネを前に倒していくこと (足関節背屈) が出来ないことが原因の一つとして考えられます。

そうなると、「筋肉 (下腿三頭筋) が硬い」ということが、
柔軟性が低いことの主要因と考えるのが自然だと思います。
ただし、下腿三頭筋の下にはアキレス腱がついています。
このアキレス腱が伸びれば伸びるほど、下腿三頭筋を伸ばした時のように
スネを前に倒していくこと (足関節背屈) が出来るため、
下腿三頭筋に加えてアキレス腱の硬さも柔軟性に関わっていると考えられます。

これはおそらく、広く一般的に受け入れられている考え方だと思いますし、
「下腿三頭筋とアキレス腱の硬さは柔軟性に影響を与える」
ということであれば、疑いの余地なく私も賛成なのですが、
「下腿三頭筋とアキレス腱の硬さが柔軟性に “決定的な影響” を持つ」
ということになると、少し違う見方を持っています。

具体的に言うと、私は、
「筋と腱の長さの比率」
が柔軟性に強く関連しているのではないかと考えています。

例えば、「足関節をどれだけ背屈させられるか?」ということを考えると、
先程も紹介したように下腿三頭筋、もしくはアキレス腱をどれだけ伸ばせるかが勝負ですので、
これらが柔らかいほうが柔軟性が高いのは間違いないと考えています。

ただし、ここで考えたいことの一つとして、「筋と腱では、明らかに腱が硬い」ということです。
安静時の筋と腱の硬さは10倍レベルで違い、腱が硬いといわれています。
今、硬いコンクリートと柔らかいゴムが直列に繋がったものを想像していただき、
それを引き伸ばした時にどちらが伸びるかを考えていただくと、
みなさん、間違いなくゴムが伸びると考えると思います。
それは、ゴムがコンクリートよりも柔らかいからです。

これと同じで、筋と腱が直列に連なったものを伸ばした時、
すなわちストレッチした時に伸びる部分は筋だと思います。
これを踏まえると、

「筋+腱」の長さは同じ、それぞれの硬さも同じだけれども、
①筋の長さが全体の90%、腱の長さが全体の10%
②筋の長さが全体の10%、腱の長さが全体の90%

の人がストレッチをすると、どちらがより伸ばせる (柔軟性が高い) でしょうか。
私の予想は①です。なぜならば、腱よりもはるかに柔らかい筋が占める割合が大きく、
伸ばせる部分がたくさんあるからです。

これは、私が以前からずっと考えていたことで、
ふくらはぎの筋肉がふくらはぎの上のほうにちょっとだけあって、
それより下はほとんどアキレス腱という人を見かけたときには、
何気なく足首のストレッチをしてもらったことがあって、
私の記憶が正しければ、おそらくすべての人が柔軟性が高くない、
という結果になっていたかと思います。

今、「柔軟性に (程度の大小は問わず) 影響を与える要因は? 」
と聞かれれば、モーメントアームや筋断面積、腱断面積などを自信をもって挙げることが出来ますが、
「それではこれらが柔軟性にどの程度影響を与えているのか?」
と聞かれると、正直、答えることが出来ません (一応、個人的な予想はあります)。
こういうことは細かいことかもしれませんが、
仮に今、柔軟性を向上させようと考えた場合、
「柔軟性に大きな影響を与えている要因」からアプローチすることが効率的であるため、
(ただし、”その要因がトレーニング等で変わりうるものなのか?” も把握する必要があります)
私はトレーニングにもダイレクトに役に立つ知識だと思っています。

現在は時間的制約もあり、取り組むことは出来ていないのですが、
もし「柔軟性を決定する要因を包括的に検証したい!」という方がいれば、
将来的には是非取り組みたいと考えています。
ストレッチ

 

前回の投稿からしばらく時間が空いてしまいましたが、近況を報告したいと思います。
2020年度の前期は、コロナウイルスの問題で授業内容の変更を余儀なくされただけでなく、
他の仕事依頼も多く、残念ながら自身の実験を行うことは出来ませんでした。
もちろん、状況が状況ですので、仕方がないと割り切って、今後に向けて動き出したいと思います。
幸か不幸か、私の担当授業は2020年度の前期に集中したということもあり
(そのため、前期は授業準備を深夜2時、3時までやっているのもザラでした・・・)、
2020年度の後期は余裕がありますので、
10月からはついに自分の実験も再開していきたいと思っています。

さて、今週末は、久しぶりに国内の学会に参加していました。
国際学会に関しては年に1回くらいのペースで参加していたのですが、
国内学会に関しては、よく考えてみると4年ぶりでしたので、
さすがにこれでは参加率が低すぎるので、
今後は年1回は国内学会に出るようにしたいと思います。

ただ、今回の学会は、コロナウイルスのためオンライン開催となりました。
これはこの学会だけがオンラインになったというわけではなく、
私が知っている学会は、国内学会、国際学会問わず、全てオンラインとなっています。
学会では、通常は口頭発表とポスター発表の2つがあり、
口頭発表はパワーポイントを使って発表し (10-20分)、
オーディエンスとの質疑応答 (2-5分) を行うといったスタイルで、
ポスター発表は、学会事務局が指定した時間にA0サイズのポスターを掲載し、
(一つのフロアに多数のポスターが掲載されています)、
参加者がポスターを見て回りながら、興味があるポスターに関しては、
ポスターの前に立っている発表者に声をかけて議論する、
といったスタイルになります。

これをオンラインで行うということで、
口頭発表に関しては、ZOOMを使って発表し、
ZOOM上で質疑応答を行うというスタイル、
ポスター発表に関しては、オンライン上にポスターをアップロードし、
それに対してオンライン上でコメントを入力し、
発表者が返信するというスタイルになっていました。

これらの研究発表に関しては、リアルでの発表と比べると、
やりとり (特に、軽いネタを振られたときに素早く相槌を打つなど) に
やや遅れが出てしまいますが、基本的にほとんど問題なく行うことが出来ていたと思います。
また、特に国際学会は、移動時間や移動費用、宿泊費用が馬鹿にならず、
頻繁に参加するのは難しいので、コロナが収まったとしても
オンライン形式の参加は続いていくのではないかと思います。

ただ、今回の学会の大会長の方も仰られていましたが、
学会の楽しみは、自身で発表する、他の人の発表を聞くだけではなく、
学会発表の合間で他の参加者とコミュニケーションすること、
さらには学会終了後にアルコールの力を借りた【night science】で深い議論を行うことも
学会参加の魅力の一つであり、オンライン開催ではこれが出来ないというのが、
大きなデメリットとなっています。
そう考えると、これまでは一度も経験したことはないのですが、
いつかは【学会公式ZOOM研究討論セッション】、もとい、
【学会公式ZOOM飲み会】が開催されるのではないかと予想しているのですが、どうでしょうか?

現在は出来るだけ人に会わないようにするため、
ミーティングの多くはオンラインでの開催になっています。

私がよく使っているのはZOOMで、
4月になってから毎週2,3回はZOOMでのミーティングを行っています。
参加者全員で、手元のPDFファイルやパワポファイルを画面共有出来るので、
ほとんどの会議や研究室ミーティングが問題なく実施出来ています。

個人的には非常に便利だと思っているので、
コロナウイルス問題が解消されても
このオンラインミーティングはある程度継続されるのではないかと思っています。

特に、東京と大阪の人が会議に参加するとなったとき、
新幹線往復の交通費や時間という大きなコストをカットすることが出来ますし、
このように極端な例でなくても、
例えば京都駅から立命館大BKCキャンパスに移動し1時間のミーティングに参加する場合、
電車とバスで1時間以上かかりますし、また遅刻しないようにするため、
15-30分前に着くように移動する人も多いと思いますので、
ミーティングの数倍、移動に時間がかかってしまいます。
オンラインミーティングであればこの時間が限りなくゼロになり、
職場のパソコン前に座って、会議が始まる2-3分前にZOOMを開けば良いだけです。

そこで今、私が考えているのは、ZOOMのようなオンラインミーティングを活用して、
研究者とスポーツトレーナー、パーソナルトレーナーが
ミーティングを行う場を設定出来ないかなということです。
私はパーソナルトレーナーを経験した後に研究者になったこともあり、
将来やりたいことの一つとして、現場と研究の融合があります。
現場と研究が融合しない理由の一つとして、そもそも接点が無いということがあると思いますので、
大学の研究室が開催している週1回のミーティング等に、
現場の目線を持ったスポーツトレーナーやパーソナルトレーナーが参加出来るようしてはどうか、
というアイデアは以前から持っていました。
ただし、現場の方は別の仕事を持っており、ミーティングのために往復数時間かけて
大学の研究室に行くというのは現実的に厳しいので実現は難しいと考えていました。

そんな中、ZOOMのようなオンラインミーティングアプリが開発されたことで、
移動のリスクは無くなったので、様々な人が参加できるミーティング実現の可能性が
大きく高まったのかと感じています。

もちろん、一番難しいのは、
スポーツやトレーニングに興味がある、情熱があるといった人を集めるということなのですが、
少なくともシステム的には、数年前と比べてハードルは大きく下がったと思いますし、
現在はフィットネスブームということもあって興味がある人は増えてきていると思いますので、
目標を目標で終わらせないように、何か具体的なアクションを起こしていきたいと思います。

コロナウイルス問題により、職場は原則通勤禁止となったため、
在宅勤務、リモートワークをしています。
大学教員の仕事は、リモートワークで対応できる部分も多くあるのですが、
実験が出来ないので研究を進めることは出来ず、
若手教員にはかなり厳しい状況となっています。
ただし、今はどうすることも出来ない状況ですので、
気持ちを切り替えて出来ることをするようにしています。

今は主に、授業の準備を行っています。
現状、通常の対面授業は再開の目処が立っておらず、
全ての授業がオンライン化されたので、
オンライン用の授業教材を作る必要があります。
このような状況は初めてで、どのような授業教材を作るのかも人それぞれといった状態で、
多くの人が頭を悩ませています。

私もいろいろ考え、一度決めた内容も二転三転した末に、
現在は、中学、高校の授業のように黒板 (ホワイトボード) の前で板書をしながら講義を行い、
その講義をビデオに撮ってYoutubeの限定公開で受講生に配布し、
Googleフォームを使った課題提出をもって出席とする、
のような流れでいこうと考えています。

受講生である大学生のデータ通信量問題があるので、
それなりに板書が見える画質は維持しつつも出来る限りデータ容量を下げるため、
微調整をしながら撮影、編集を行っています。
そもそもこれまでに動画編集をしたことがなく、動画編集ソフトも手探りの状態なので、
毎日問題が発生していて大変な状況ですが、
この経験が将来いつか役に立つだろうと自分に言い聞かせてやっています。

半年間のサバティカルを終え、3月18日にスウェーデンから日本に帰国しました。
本来は3月28日に帰国する予定だったのですが、
スウェーデンの隣国であるノルウェーやデンマークで飛行場閉鎖や国境閉鎖が始まり、
スウェーデンから日本に戻れなくなる可能性があったので、
ラボのボスに相談し、帰国を早めることにしました。

3月16日の午前中にボスに相談し、帰国許可をもらった後に飛行機チケットを探したところ、
翌日3月17日の午後にドバイ経由で関空に行ける飛行機があったのですぐに予約しました。
そこからすぐに研究室と自宅アパートの整理をし、帰国準備を始めました。
時間がなく宅急便の手配をするのは難しそうだったので、
もったいないのですが捨てても買いなおせるものは捨てて、
なんとか荷物をスーツケース2個分だけにしました。
帰国当日、ストックホルムのアーランダ空港に着いたときに電光掲示板を見ると、
当日キャンセルの飛行機が何個もあり、
関空行きの飛行機に乗るまでは日本に帰ることが出来るかどうか分からないような状況でした。
結果的には、大きな問題なく関空に着いたのでほっとしました。

予想外の形で半年間サバティカル終了となりましたが、
幸い、カロリンスカ研究所では多くの実験をさせてもらえたので、
新しい技術の習得だけでなく、論文に出来るだけのデータを得ることもできました。
また、このブログでも紹介した通り、
イギリスの有名ラボとのネットワークを構築することもできました。
これは私の研究者生活のターニングポイントになるかもしれないぐらい、
大きなイベントだと思っています。

さらに、ストックホルムでは、大学のすぐ近くにSATSという良いジムがあって、
フリーウエイトに関してはゴールドジムレベル、もしくはそれ以上に充実していたので、
本当に久しぶりにベンチプレスとデッドリフトをトレーニングメニューに組み込むこともできました。
最終的には、やはりコロナの影響でジムが休館となってしまいましたが、
それまではとても充実したトレーニングをすることが出来ました。

もちろん、日本より不便なこともあり、何個かトラブルもありましたが、
トータルで考えると、間違いなく “行ってよかった” と言える留学になったかと思います。
4月からはまた立命館大学のスポーツ健康科学部で働くので、
今の環境だからこそ、自分だからこそ出来ることは何かを考えて、
研究活動、教育活動を進めていきたいと思います。
アーランダ空港

最近、論文を投稿しました。
これは、2018年度の夏休みに、カナダのカルガリー大学で取得したデータに関するもので、
これでカルガリー大学で取得したデータは全部使い切ったという感じです。
データ取得からかなり時間が経っているのですが、

データ取得 → 分析 →データの解釈 → 学会発表 → 論文執筆 → 論文投稿

というプロセスを考えると、
まあこんなもんかなという感じです。
(本音としては、上記のプロセスを1年くらいで終わらせたいと考えていたのですが・・・)
さらにいうと、実験計画の立案や研究費申請、倫理申請に1年くらい、
論文投稿から論文採択までにだいたい6ヶ月から1年くらいかかるので、
あらためて、一つの研究プロジェクトを成功させるのは大変だなと感じています。

論文投稿に際し、どの雑誌に論文を投稿するのかを決めるのですが、
多くの人はインパクトファクター (雑誌の価値を測る指標) を参考にするかと思います。
ただ、最近は、論文掲載料もしっかり考えないといけなくなっています。
最近は、大学や研究所で働いている人だけでなく、
Youtuberでも論文を読み込んでいる人がいるようですが、
これが出来るのは、論文が “オープンアクセス” といって、
ネットで無料でダウンロード出来るようになっているからだと思います。
これまでは、普通は大学の図書館等が購読料を支払うことで、
大学関係者が論文をダウンロード出来るようになっていたのですが、
「研究費 (主に国から交付されたお金) で得られた研究成果は一般市民にも還元されるべき」
という考えから、
無料で研究成果を閲覧できるようにするという動きが広まってきています。

これはよい動きだとは思うのですが、
こうなると、これまでは図書館等が支払う購読料によって運営されていた論文発行雑誌
(講談社といった本の出版会社の論文バージョンと考えてください)
の運営がうまくいかなくなるので、
当然、誰かがお金を負担する必要があります。
それが、上記の論文掲載料 (オープンアクセス料) といった感じになっています。
私が最初にオープンアクセス専門の雑誌の論文掲載料を見た時、
10万や15万といった額だったので、正直「高っ」と思った記憶があります。

そこで、今回論文を投稿する時に、なるべく安いところに投稿しようと思って、
一通り論文掲載料を調べてみると、
なんと、当時10万や15万で高いと思っていた私の考えは既に過去のものとなっていて、
20万を超えるところも多く、40万、60万というのもありました。
これらの中には、「ハゲタカ雑誌」といって、
論文掲載料で商売をしようとしている悪質なものもあるのですが、
例えば上記の60万の雑誌は、誰もが夢見る超有名どころのジャーナルなので、
「論文掲載料が高すぎる雑誌は何か問題のある雑誌だ!」というわけではありません。

この論文掲載料のコンセプトは、今後受け入れざるを得ないものになると思いますので、
いろいろ考えていかなければならないなと改めて実感しました。

なお、今回は特に写真がないので、カロリンスカ研究所での私の紹介ページを載せておきます。
https://staff.ki.se/people/atsfuk
カロリンスカに来てすぐのもろもろの事務作業で、
メールアドレスを何回打っても上手く認識しなかったのでおかしいなぁと思っていたのですが、
メールアドレスをよく見てみると謎が解けました。
そして、「これってこのままでいいんですか?」と一応確認したのですが、
「別に大きな問題はないでしょ!?」という感じだったので、
私も「もうこれでいいや」という感じで、結果的に半年間、特に問題なくやりすごしました (笑)

カロリンスカ研究所

スウェーデンでの研究生活も、残り2ヶ月となりました。
実験が完成したわけではないのですが進歩はみられ、
実験サンプルを作成 (単一の筋細胞を抽出) した後に、
筋細胞を顕微鏡下で筋力計とモーターに取り付け、
短縮性収縮、伸張性収縮中の筋力とカルシウムイオン濃度の変化を計測というところまできています。

この実験は、一番難しい工程 (筋細胞の抽出) が一番最初にあるので、
そこでつまずいて先に進まないということが往々にしてあるのですが、
なんとかそこを突破しつつあります。
(といっても50%ぐらいの確率で失敗しています・・・)

あとは、筋の長さが変わらない等尺性収縮だけではなく、
長さ変化のある短縮性収縮、伸張性収縮も行うことに付随する問題が何個か出てきて、
いまはそれの対策をしているといった感じです。
幸か不幸か、いろいろな想定外の問題に遭遇したおかげで、
問題解決能力はかなり向上したと思います。

来年度の授業配属もおおよそ決まり、授業の準備や帰国準備等を考えると、
実験が出来るのは実質1ヶ月程度かとは思いますが、
悔いの残らないよう全力で走り抜けたいと思います。

なお、ついにストックホルムでもコロナウイルスに感染した人が出たようです。
自分で何か有効な対策が出来るわけではないのですが、
体調には気をつけて生活したいと思います。

先日、立命館大学の副総長である、伊坂忠夫先生がカロリンスカ研究所に来られました。
多忙なスケジュールのため、24日の夜に到着して27日の朝に帰国という強行日程にもかかわらず、
カロリンスカ研究所にきていただきました。

実質2日ということで、初日はカロリンスカ研究所を案内し、
私がこちらで行っている実験の一部を体験していただきました。
二日目は、私の研究プロジェクトの相談、
さらには伊坂研究室の今後の研究プロジェクトの打ち合わせを行いました。

現在、私がメインに行なっている実験は、規模が非常に大きくなってしまい、
私1人の力ですすめることは難しい状態なのですが、
伊坂先生のマネジメントのおかげで
既に実験に着手することが出来ています。

夕食時もいろいろなお話をさせていただき、その中で、
「研究者として生き残っていくためには何かで突き抜ける必要がある」
という話がありました。
研究活動にはいろいろな戦略があり、例えて言えば、
打ちやすいシングルヒットを確実にたくさん打つのか、
もしくはなかなか打てないけれども当たればホームランになるようなスイングをするのか、
といったものがあります。
自分が研究に使える時間には限りがあるのでどちらも完璧にやることは不可能であり、
突き詰めれば突き詰めるほど、どちらかに注力する必要があります。
伊坂先生が私に期待していることはおおよそ理解できたつもりですので、
その期待に応えられるように、私にしか出来ないことに集中して頑張りたいと思います。

最後は、ノーベルミュージアムに行き、
”ノーベルメダル” と一緒に写真を撮って頂きました。
お忙しい中、ストックホルムに来て ”激励” を頂き、ありがとうございました。

現在、ストックホルムはクリスマス休暇の真っ最中で、
多くの学生、スタッフは自身の国に帰国したり、スウェーデン内の実家に帰っているため、
カロリンスカ研究所内はとても閑散としています。
そんななか、私はいつも通りの生活をしています。

ストックホルムに来る前は、ノーベル賞の受賞講演を生で見たいと思っていたのですが、
残念ながらちょうど同じ時期にキングスカレッジ・ロンドンに行っており、
それを見ることは出来ませんでした。
ただ、私にとってはキングスカレッジ・ロンドンでの収穫が非常に大きかったので、
想定以上に有意義な時間を過ごせたと考えています。

さて、最近、雑誌やインターネット等で、
“電気刺激トレーニング”、”EMSトレーニング” を目にすることが多く、
カロリンスカ研究所でも知り合いに “電気刺激トレーニングってどうなの??” と聞かれたことが
あるので、 今日は電気刺激トレーニングについて私の知っていることを紹介したいと思います。

私自身はこれらの市販品を使ったことはないのですが、 大学院生の時に、
神経に電気刺激を行ったときの筋肉の応答をみる研究をしていたので、
業務用!? (研究用) の電気刺激装置を使って、
自分自身、もしくは友人に何百回、下手をすると何千回もの電気刺激を行ったことがあります。

この電気刺激トレーニングの効果を考える前に、
まずは簡単に筋肉が収縮する仕組みを紹介したいと思います。
通常の自発的に行う運動時であれ、人工的に電気刺激装置を使う時であれ、
筋肉を収縮させるためには “神経からの筋肉への刺激” が必要です。
通常の運動時であれば、脳からの司令が運動神経に伝わり、
運動神経の興奮が筋肉に伝わることで筋肉が動きます。
一方、人工的な電気刺激時では、脳からの司令がなくとも、
人工的に運動神経を興奮させることが出来ますので、
この方法でも筋肉を動かすことができます。
脳からの司令で運動神経を興奮させた時と、電気刺激で運動神経を興奮させた時の
運動神経の興奮パターンは 厳密には同じではないのですが、
基本的には同じようなものと考えて良いと思います。

これらを踏まえて、”電気刺激トレーニングは効果があるのか?” という疑問を考えると、
もし仮に、電気刺激の強度 (一発の電気刺激に用いる電圧や、刺激回数) が十分であれば、
トレーニング効果は十分にあると考えられます。
むしろ通常の運動では困難な、 全ての筋線維を強制的に動員させるということが出来ますので、
通常の運動では得られないようなトレーニング効果も期待できます。
問題は、”十分な電気刺激強度” に耐えられるのか?ということです。
全ての筋線維を動員するためには大きな電圧をかける必要があり、
動員した筋線維を完全に収縮させるためには
(筋線維内のカルシウムイオン濃度を高めて多くのアクチンとミオシンを反応させるためには)
電気刺激の回数 (頻度) を高める必要があります。
私は実際にこれを自分自身のふくらはぎや大腿部の筋肉で試したことがありますが、
耐え難い痛みが生じます。
刺激時間は1秒間程度というごく短い時間であっても激痛を覚えるには十分な時間であり、
例えば通常の筋力トレーニングのように
1秒間で上げて2秒間で下げるを10回繰り返す (合計30秒間) を真似て、
30秒間の電気刺激を行うことは極めて困難だと思います。
少なくとも私は絶対にやりたくないですし、耐えられないと思います。
ちなみに私が実験で採用しているのは、全力の筋力発揮を100%とすると、
その10%から20%に該当するような低強度のもので、
筋力トレーニングという目的ではなく、筋肉の収縮特性を調べるという目的で使っています。

以前、コマーシャルか何かで、”笑顔” で腹筋への電気刺激を行っている宣伝を
見たことがあるのですが、 これができるのはおそらく電圧がとても低く、
筋線維をほとんど動員していないからではないかと思います。
ですので、市販品の電気刺激トレーニングが高強度の筋力トレーニングの代わりになるかといえば、
難しいと思います。

ただし、電気刺激を用いることで
通常の運動では生じ得ないような状況を作り出すことができますので、
電気刺激の強度 (痛み) をうまく調節したうえでこの特徴を活用することができれば、
トレーニングやリハビリテーションに活用出来る可能性は十分にあると考えています。
特に、低体力者や脊髄損傷患者等には有意義なものになるのではないかと思っています。

長くなってしまいましたが、
「電気刺激トレーニングは効果があるのか?」という最初の疑問に対する答えとしては、
「目的によりけり」というキレのないものになってしまうのですが、
少なくとも、「笑顔で続けられるような電気刺激トレーニング (電気刺激強度) で、
通常の筋力トレーニングでは得られないような筋肥大が短期間で生じる」ということは
残念ながらなさそうです。
もし仮に、最大強度の電気刺激がどういうものか体験したい方がいれば、
2020年4月頃から電気刺激を用いた実験をする予定ですので、
被験者として協力していただければと思います!

電気刺激トレーニング

現在、スウェーデンのカロリンスカ研究所を拠点に活動していますが、
今回はイギリスのキングス・カレッジ・ロンドンの紹介をしたいと思います。

ヨーロッパにいることのメリットとして、
2-3時間のフライト、かつ、東京-大阪の新幹線往復程度の値段で
他のヨーロッパの国に行くことが出来るということがあります。

そこで、以前から私が注目していたキングス・カレッジ・ロンドンに行ってきました。
キングス・カレッジ・ロンドンは、12名ものノーベル賞受賞者がいるような非常に有名な大学であり、
ナイチンゲールという歴史的に有名な人が世界初の看護学校を設立したことでも有名です。

私の興味がある筋肉の研究分野に関しても、
筋収縮の根源である “滑り説” の提唱という金字塔を打ち立てた
ジーン・ハンソン (Jean Hanson) という方がおり、
伝統として筋肉の研究を世界的にリードしている大学です。
そのラボで働いている研究者の1人であるLuca Fusiという方と知り合う機会があり、
一度、訪問させていただいても良いですかとお願いしたところ、快く承諾していただきました。

実際に訪問すると、驚くほど親切に対応していただき、
現在進行中の研究を詳細に紹介していただいただけでなく、
私の研究アイデアをプレゼンする機会もいただきました。
正直、ここまでやってもらえるとは思っていなかったので、
発表スライドも「もし紹介するチャンスがあれば」という感じで
パワーポイント9枚程度しか準備していなかったのですが、
蓋を開けてみれば1時間近く、細部に渡りディスカッションすることとなりました。

その後はラボのみんなで食事に行き、
食事後はFusi先生とBrunello先生と私の3人だけで、
先生たちの未発表データを、2時間程度、みっちり紹介していただきました。
詳細はここでは言えませんが、まさにトップレベルの研究で、
これまでの考え方を大きく変えなければならないようなものでした。

結局、朝の10時に待ち合わせをしたのですが、全てが終わったのは夕方の6時位で、
この間ずっと私に付き合っていただき、とてもありがたかったです。
レベルは違うのですが、お互い同じような実験系を採用していることもあり、
一緒に研究ができればいいねという話もしていただき、
問題は私の実力が追いつくかどうかといった感じです。

今回の訪問で私のモチベーションは想像以上に高まったので、
明日からは今以上にフルスロットルで頑張りたいと思います。

写真の一つは、ロンドンブリッジから見たタワーブリッジです。
訪問する一週間前にロンドンブリッジでテロがあったのですが、
私が訪問したときには問題なく、多くの人がロンドンブリッジを利用していました。

今回はストックホルムの特徴を紹介したいと思います。

まず、滋賀に住んでいた私からするとストックホルムは寒いです。
おそらく北海道と同じような感じで、既に0度を下回る日もあります。

あと、日本との大きな違いは、冬は暗くなるのがとても早いということです。
写真は、16時前に撮ったオフィスの写真ですが、既に真っ暗です。この暗い時間が長いせいなのか、
このあたりに住んでいる人は鬱になりやすいと聞くことがありますが、私は全く問題なかったです。
そして、「暗くなる = 帰る時間」という感覚があるのか、16時前頃には多くの人が帰宅します。
感覚的には、第一グループが15時30分から16時に帰って、第二グループが18時に帰って、
それよりも遅くまで残っている人は一部の留学生だけ、という感じです。
ちなみに、日本人はハードワーカー (遅くまで仕事をする) ということは多くの人に知れ渡っており、
私も典型的な日本人スタイルです。

私にとって、この夜が長いということよりも大きな問題だったのは、雨が多いということです。
台風のときのような激しい雨ではないのですが、2日に1回ぐらいのペースで雨が降っていて、
一日中晴天の日は、本当に数えるほどしかないです。
今回は折りたたみの小さい傘しか持って来ていなかったので、
1月に日本に一時帰国したときは、大きなしっかりした傘を用意したいと思います。

カロリンスカ研究所

カロリンスカ研究所では、筋肉の塊から一つの筋細胞を取り出して、
この筋細胞の筋力を測定する実験を行っています。

取り出し方は何通りかあるのですが、
今回は、顕微鏡で確認しながらピンセットとハサミを使って余分な部分を切り落としていき、
最後に一つの筋細胞だけを残すという方法を採用しています。

実際、やっていることは本当にこれだけで、説明するのは非常に簡単なのですが、
いかんせんサイズが小さいので、非常に難しく時間がかかる作業になっています。
最後に一本を残そうと思っているにもかかわらず、途中で全てを切り落としてしまったり、
一本だけ残せたとしても、電気刺激を与えてもうんともすんともいわない
(筋細胞が収縮しない = 作業中にダメージを負って収縮出来なくなっている)
ということが多々あります。

さらに、作業開始から残り数本だけ切り落せば完成というところまで1時間以上かかるので、
最後に誤って全てを切り落としてしまうと
それまでの1時間以上の作業時間が無駄になってしまいます。

大変だとは聞いていたのですが、噂通り大変でした・・・。
写真は、最終的に (生きた筋細胞が) 一個になったものです。
写真では伝わりにくいかもしれませんが、筋細胞は非常に透明でキレイに見えます。

筋細胞は、太さが髪の毛と同じくらいで (直径0.1 mm)、
長さはものにより1 mmだったり、200 mmだったりします。
今回の実験では、筋細胞が長いと一本を取り出すのが非常に難しいので
(長いと、筋細胞を壊すチャンスが増大します)、
1 mm以下という短い筋細胞を対象にしています。

この筋細胞を用いる利点としては、
例えば筋疲労系のサプリメントを摂取したときの効果といったものを検証するとき、
筋細胞にサプリメントをダイレクトにふりかけて効果を検証出来ることが挙げられます。
他にも、筋収縮中において、筋細胞内のカルシウムイオンの出入りを見ることもできるので、
この実験技術をカロリンスカ研究所でしっかり習得して日本に帰りたいと思います。

筋細胞

10月から3月まで、在外研究制度というものを利用し、
スウェーデンのカロリンスカ研究所で研究を行っています。
所属する研究室のボスは、Håkan Westerbladという方で、筋疲労の研究で有名な方です。

この六ヶ月の在外研究の目的は、intact fiberと呼ばれる生きた単一の筋細胞を取り出して、
筋細胞内のカルシウムイオン濃度を測りながらの筋力計測手法を習得することです。
実験技術を説明することは簡単なのですが、単一の筋細胞を取り出すという作業がとても大変で、
少しでも対象とする筋細胞を傷つけると収縮しなくなりますので (死んでしまいますので)、
慎重に余分な筋細胞を切り落としていき、最後に1個だけ残すという作業を練習しています。
習得には3ヶ月位かかると聞いており、 必然的に現時点では失敗のみを繰り返す毎日で
精神的にタフな状況ですが、 なんとか12月中には形になるようにしたいと思います。

また、カロリンスカ研究所はストックホルムにあり、
ストックホルムはノーベル賞の授賞式が行われるところとして有名ですので、
そのへんの観光もしようと思っています。

7月31日から8月4日にかけて、カナダのカルガリーで開催された
国際バイオメカニクス学会に参加してきました。これは、バイオメカニクスという分野では最も大きい学会で、二年に一度開催されています。
今回は、以前、私が留学していたカルガリーでの開催でした。

バイオメカニクスの最新の研究動向を把握するために、2011年からは毎回参加するようにしています。
発表形式は、パワーポイントを使って10分間程度で口頭で発表するパターンと、
A0サイズのポスター用紙を使って研究を紹介するパターンの2つがあります。
写真はポスター発表の様子で、ポスターが貼ってあるスペースを参加者が自由に回り、
気になったポスターがあればポスターの前に立っている発表者に話しかける、
といった感じで進んでいきます。
この学会は非常に大きい学会なので、とてもたくさんの研究者がいました。
学会によっては、ここでアルコールが配られることもあります。

私は、反動動作による筋力増強 (stretch-shortening cycle) の効果を
速筋と遅筋で比較した研究を発表しました。
学会で様々なフィードバックを得て、研究の集大成とも言える論文執筆に活かすようにしています。

ポスター発表

はじめまして。 立命館大学スポーツ健康科学部の福谷充輝です。
この度、ウェブサイトを作成し、コンテンツの一つとしてブログも作成しました。

このブログでは、一ヶ月に一度くらいのマイペースではありますが、
主に自身の研究内容や実験、研究発表などを紹介出来ればと考えています。
これらに加えて、趣味でもあるトレーニングに関する情報もアップロードしていこうと考えています。 (むしろ、トレーニングに関するネタのほうが多くなりそうな気がしますが・・・)

また、何かありましたらお気軽にお問い合わせフォームよりご連絡頂ければと思います。
それでは今後も何卒、よろしくお願い致します。

写真

Atsuki Fukutani Ph.D.
(Sport Sciences)

Faculty of Sport and Health Science, Ritsumeikan University, Assistant professor

1-1-1 Noji-higashi, Kusatsu, Shiga, 525-8577, Japan

info@skeletalmuscle.net

Copyright © Atsuki Fukutani
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