反動動作による筋力増強 (stretch-shortening cycle) における伸張反射の役割
前回は、固有受容器の話を紹介しましたので、今回はその繋がりで、
“筋紡錘” という固有受容器に関する話を紹介したいと思います。
筋紡錘とは、筋の中に存在する固有受容器で、
筋が引き伸ばされたとき、放っておくとそのまま筋が伸びすぎてちぎれてしまうかもしれないので、
「筋を縮ませろ」という司令が筋紡錘から発せられます。
そうすると、筋が縮む、つまり力発揮が促通される、ということが起きます。
これは、前回のストレッチ時の話 (ゴルジ腱器官の話) とは逆で、
“リラックス” を促通するわけではなく “力発揮” を促通させるので、
とある動作のパフォーマンスを高めたい時に使うことができそうです。
その最たるものが、反動動作による筋力増強 (stretch-shortening cycle) かと思います。
このstretch-shortening cycleは、私のメインの研究テーマということもあり、
話が長くなってしまいそうですが、ご了承のほど、よろしくおねがいします。
stretch-shortening cycleとは、反動動作 (stretch) を行うと、その後の主動作 (shortening) の
パフォーマンスが増強するという現象です。
これは皆さん、経験的に知っていることで、高く跳ぶときには、いきなり上に飛ぶのではなく、
一度、主動作とは反対方向である下に沈み込んで飛ぶと思います。
この反動動作の局面では筋は引き伸ばされることになります。
そうすると、先程紹介した筋紡錘の働き (筋が引き伸ばされすぎるとちぎれてしまうので、筋が収縮するように司令をだす) が生じ、
その後の主動作 (上の例で言えばジャンプする局面) で収縮が促通され、
より高く飛べるようになります。
これが、トレーニング科学のテキストブックで書かれている説明かと思います。
前回のストレッチの話と同様、この説明だけを聞くと、
「なるほど、反動を使うと高く飛べる理由の一つとしては、伸張反射 (筋紡錘の働き) があるのか」
となると思います。
しかしながら、私は一つ疑問を持っています。
これは前回のストレッチと同じような視点で、
反動を使うと筋収縮が促通されてパフォーマンスが向上するのであれば、
反動を使わない時は100%の筋収縮が出来ていないということになります。
もし仮に、反動を使って筋の力発揮が向上するのであれば、
反動を使わないときは何らかの理由で自身がもちうる力を100%使い切れていないことが
担保される必要があると考えています。
(なお、今回の話は、最大努力、出しうる力を全て発揮している状態) に限定して考えて下さい。
最大努力ではない力発揮を対象とすると、話が変わってきます)
“促通する” という言葉は、便利ではあるけれども注意を要する言葉で、
“今あるものを使えるようにする (0-99%の範囲から (最大でも) 100%にする)” というだけで、
自身が持ちうるポテンシャルを超える力を出すことは出来ない
(100%のものをそれ以上にすることは出来ない) ことを考える必要があると思います。
そういう意味で、私は伸張反射がstretch-shortening cycleに効果があるとするならば、
最大努力ではない、反動を使ったリズミカルな運動を行う時ではないかと考えています。
現在の私の研究は「最大努力、最大強度」を想定したものということもあり、
正直、伸張反射には重きをおいていませんが、
経験的には、特に理学療法士が行うようなリハビリテーションで
特定の運動を覚えさせる、思い出させるようなときには
伸張反射 (筋紡錘) を活用することに意味があるのではないかと考えており、
個人的には、この辺りも研究が発展して欲しいトピックです。