福谷充輝のホームページ

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電気刺激トレーニング

現在、ストックホルムはクリスマス休暇の真っ最中で、
多くの学生、スタッフは自身の国に帰国したり、スウェーデン内の実家に帰っているため、
カロリンスカ研究所内はとても閑散としています。
そんななか、私はいつも通りの生活をしています。

ストックホルムに来る前は、ノーベル賞の受賞講演を生で見たいと思っていたのですが、
残念ながらちょうど同じ時期にキングスカレッジ・ロンドンに行っており、
それを見ることは出来ませんでした。
ただ、私にとってはキングスカレッジ・ロンドンでの収穫が非常に大きかったので、
想定以上に有意義な時間を過ごせたと考えています。

さて、最近、雑誌やインターネット等で、
“電気刺激トレーニング”、”EMSトレーニング” を目にすることが多く、
カロリンスカ研究所でも知り合いに “電気刺激トレーニングってどうなの??” と聞かれたことが
あるので、 今日は電気刺激トレーニングについて私の知っていることを紹介したいと思います。

私自身はこれらの市販品を使ったことはないのですが、 大学院生の時に、
神経に電気刺激を行ったときの筋肉の応答をみる研究をしていたので、
業務用!? (研究用) の電気刺激装置を使って、
自分自身、もしくは友人に何百回、下手をすると何千回もの電気刺激を行ったことがあります。

この電気刺激トレーニングの効果を考える前に、
まずは簡単に筋肉が収縮する仕組みを紹介したいと思います。
通常の自発的に行う運動時であれ、人工的に電気刺激装置を使う時であれ、
筋肉を収縮させるためには “神経からの筋肉への刺激” が必要です。
通常の運動時であれば、脳からの司令が運動神経に伝わり、
運動神経の興奮が筋肉に伝わることで筋肉が動きます。
一方、人工的な電気刺激時では、脳からの司令がなくとも、
人工的に運動神経を興奮させることが出来ますので、
この方法でも筋肉を動かすことができます。
脳からの司令で運動神経を興奮させた時と、電気刺激で運動神経を興奮させた時の
運動神経の興奮パターンは 厳密には同じではないのですが、
基本的には同じようなものと考えて良いと思います。

これらを踏まえて、”電気刺激トレーニングは効果があるのか?” という疑問を考えると、
もし仮に、電気刺激の強度 (一発の電気刺激に用いる電圧や、刺激回数) が十分であれば、
トレーニング効果は十分にあると考えられます。
むしろ通常の運動では困難な、 全ての筋線維を強制的に動員させるということが出来ますので、
通常の運動では得られないようなトレーニング効果も期待できます。
問題は、”十分な電気刺激強度” に耐えられるのか?ということです。
全ての筋線維を動員するためには大きな電圧をかける必要があり、
動員した筋線維を完全に収縮させるためには
(筋線維内のカルシウムイオン濃度を高めて多くのアクチンとミオシンを反応させるためには)
電気刺激の回数 (頻度) を高める必要があります。
私は実際にこれを自分自身のふくらはぎや大腿部の筋肉で試したことがありますが、
耐え難い痛みが生じます。
刺激時間は1秒間程度というごく短い時間であっても激痛を覚えるには十分な時間であり、
例えば通常の筋力トレーニングのように
1秒間で上げて2秒間で下げるを10回繰り返す (合計30秒間) を真似て、
30秒間の電気刺激を行うことは極めて困難だと思います。
少なくとも私は絶対にやりたくないですし、耐えられないと思います。
ちなみに私が実験で採用しているのは、全力の筋力発揮を100%とすると、
その10%から20%に該当するような低強度のもので、
筋力トレーニングという目的ではなく、筋肉の収縮特性を調べるという目的で使っています。

以前、コマーシャルか何かで、”笑顔” で腹筋への電気刺激を行っている宣伝を
見たことがあるのですが、 これができるのはおそらく電圧がとても低く、
筋線維をほとんど動員していないからではないかと思います。
ですので、市販品の電気刺激トレーニングが高強度の筋力トレーニングの代わりになるかといえば、
難しいと思います。

ただし、電気刺激を用いることで
通常の運動では生じ得ないような状況を作り出すことができますので、
電気刺激の強度 (痛み) をうまく調節したうえでこの特徴を活用することができれば、
トレーニングやリハビリテーションに活用出来る可能性は十分にあると考えています。
特に、低体力者や脊髄損傷患者等には有意義なものになるのではないかと思っています。

長くなってしまいましたが、
「電気刺激トレーニングは効果があるのか?」という最初の疑問に対する答えとしては、
「目的によりけり」というキレのないものになってしまうのですが、
少なくとも、「笑顔で続けられるような電気刺激トレーニング (電気刺激強度) で、
通常の筋力トレーニングでは得られないような筋肥大が短期間で生じる」ということは
残念ながらなさそうです。
もし仮に、最大強度の電気刺激がどういうものか体験したい方がいれば、
2020年4月頃から電気刺激を用いた実験をする予定ですので、
被験者として協力していただければと思います!

電気刺激トレーニング

写真

Atsuki Fukutani Ph.D.
(Sport Sciences)

Faculty of Sport and Health Science, Ritsumeikan University, Assistant professor

1-1-1 Noji-higashi, Kusatsu, Shiga, 525-8577, Japan

info@skeletalmuscle.net

Copyright © Atsuki Fukutani
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