第37回日本トレーニング科学会大会で研究発表をしました
第37回日本トレーニング科学会大会で、
【乳酸ではなく乳酸発生による水素イオンが筋力発揮を低減させる】
という内容で研究発表を行いました。
皆さんは乳酸にどのようなイメージを持たれているでしょうか。
これまで乳酸は疲労物質と考えられており、
スポーツで疲れた選手のことを、「あの選手は乳酸が溜まっていますね」と表現していることを聞いたことがある人も多いと思います。
しかし、近年、乳酸はエネルギー源になることが証明されており、
「乳酸は疲労物質ではなくエネルギー源」という主張も見受けられるようになっています。
さらには、エネルギー源なのであれば、むしろ積極的に乳酸をサプリメントとして摂取するべきでは?という考えも出てきています。
このような状況を、”筋力” を研究テーマにしている私からみると、
【乳酸はエネルギー源になるのは間違いなさそうだが、
エネルギー源だからといって筋力低下 (クロスブリッジサイクルを阻害) しないとは言い切れないので検証が必要では?】
と考えていました。
そこで、抽出した筋細胞に、人工的に乳酸 (乳酸イオンと水素イオンに電離) を加えて、
その時に筋力が低下するかどうかを確認しました。
条件としては、
①何の操作もしていない、普通の状態 (pH7.0) での発揮筋力
②乳酸を加えて、pHを6.0に調整した時の発揮筋力
③乳酸を加えたけれども、pHを7.0に調整した時の発揮筋力 (乳酸から生成される水素イオンの影響を除外)
を用意しました。
その結果、①と比較して②は、明らかに筋力が低下しましたが、
乳酸を加えはしたが、水素イオンの影響を除外した③においては、筋力の低下はみられませんでした。
この結果は、乳酸から生じる水素イオン (pHを低下させる) は筋疲労に繋がりますが、
乳酸のもう一つの代謝産物である乳酸イオンに関しては、筋疲労を誘発しないことを示しています。
この結果を踏まえると、乳酸イオンと水素イオンの化合物ではなく、
例えば乳酸イオンとナトリウムイオンの化合物である乳酸ナトリウムをサプリメントとして摂取すれば、
水素イオンの悪影響を避けつつ乳酸イオンの恩恵を受けることが出来ると考えられます。
なお、月末に開催されるバイオメカニクス学会では、カフェインが筋収縮に与える影響を検証した実験を報告する予定であり、
今後はこのようなサプリメント開発に関わる栄養素の研究も積極的に進めていこうと思っていますので、
興味がある人がいれば一緒に研究をすすめていきましょう。