福谷充輝のホームページ

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骨格筋の研究手法・skinned fiber編

今後は、ホームページに新たなカテゴリーを作って、自身の研究紹介のようなコンテンツを作りたいなと考えています。
それに先立ち、ブログで簡単にどのような研究手法があるのかを紹介したいと思います。

私が最も興味あるのは、筋の収縮 (筋力がどのように調整されているのか?、どうすれば大きな力が発揮できるのか?) です。
これは、自身がスポーツをやってきて、フィジカルを向上させるにはどうすればいいのか?と考えてきたことが原点となっています。

一重に筋力計測といっても、いろいろなやり方があり、
例えばヒト生体の関節運動を対象としたものや、動物の筋を摘出したもの、もしくは単一の筋細胞を取り出したものなどがあります。
筋力を測るという意味では共通の考え方は多いのですが、実験対象が異なると、測定方法や必要な機材が大きく異なることもあり、
ヒト生体を専門としている研究者、もしくは単一の筋細胞を専門としている研究者といったように、
棲み分けをするのが普通です。

ただ、私は、これが自身の長所だと思っているのですが、
筋収縮に関することであれば、ヒト生体でも単一の筋細胞でも、はたまた分子レベルの現象であっても興味があり、
様々な実験系をやったことがあります。
なので、大学や文科省、民間団体などから多くのサポートを頂きながら、
筋収縮に関する様々な実験機器を揃えてきました。

その中で、私が力を入れている実験を何個か紹介したいと思います。
今回は、skinned fiberという実験系についてです。

これは、単一の筋細胞 (もしくは数本程度の筋細胞の束) を取り出して計測を行うというものです。
この実験系の最大のポイントは、筋細胞の膜を破壊しているため、
筋細胞の中に様々な化学物質 (栄養、もしくは毒のようなもの) を自由に送り込めるということです。
通常、細胞には膜があり、この膜 (仕切り) があるため、物質が自由に細胞内外を出入りするというわけではなく、
特定の物質が、特定のタイミングでのみ、出入りします。
しかし、この膜 (仕切り) がなくなると、流入を制御することができなくなり、
skinned fiberをつけている水溶液の成分が、筋細胞内のタンパク質にダイレクトに届きます。

そのせいで、直感的には受け入れ難い、不思議なことも起こります。
例えば、誰もが知っている筋疲労ですが、この筋疲労はskinned fiberでは起こらず、
最大強度の収縮を数分間単位で行うことが可能です。
筋疲労というのは、筋収縮を繰り返すことによって生じる化学物質が筋細胞内に蓄積して、
筋収縮機構に悪影響を与えることで生じますが、
skinned fiberは膜 (仕切り) がないので、
筋細胞から出てきた筋疲労物質 (ここでは筋疲労物質が何かは言及しませんが、実は乳酸関連でちょっと実験を行っています)
が筋細胞内に蓄積せずそのへんに流れ出ていくため、
筋疲労が起こりません (ただし筋疲労ではなく、”ダメージ” による筋力低下は生じます)。

メリットとして、好きな成分を、筋細胞の中にダイレクトに送り込むことが出来るので、
例えば、心臓の筋を取り出してskinned fiberにし、
近年注目されている、心筋症の薬 (心臓の働きを調整、すなわち心筋の収縮を調整するもの) の効果をダイレクトに検証する事ができます。
他にも、特定の栄養素や、筋疲労物質の影響も、もちろん調べることが出来ます。
(筋疲労はしない、といいましたが、水溶液全体に筋疲労物質を入れることで、筋疲労を模倣した実験をすることも出来ます)
また、単一の細胞レベルといった小さいサンプルになると、
光学顕微鏡でサルコメアの長さ変化を捉えつつ、力学計測をすることも出来ます。

これらのメリットが有るため、私の研究で最も頻繁に使っている方法になります。
また、筋細胞を単離して筋力計へセットするという工程は、そこまで難しくはなく、
ゴットハンドが必要とされるようなものではないので、
数週間程度の練習である程度形になるというところもメリットかと思います。
簡単ですぐにできる!というわけではないですが、いつか紹介しようと思っている、
①筋原線維の実験、②”細胞膜が生き残った” 単一の筋細胞の実験系は、
数ヶ月単位、場合によっては年単位の練習が必要になるので、それと比べると、skinned fiberはかなり精神的に楽です。。。

以下の写真は、うさぎの大腰筋をskinned fiberにして、クリップで両サイドをとめたものです。
このクリップは、アルミホイルを小さくこの形に切って、筋線維を挟むようにして止めています。
そして四角の穴に、モーターや筋力計の先端につけた針に通して、skinned fiberを固定する、という感じになります。

この実験系に関しては、1ms以下といった高速動作が可能な実験系と、
位相差顕微鏡下でサルコメア長を計測しながら力学計測を行う実験系の2つが揃っており、
次に紹介予定の、ラット生体を対象とした実験系と並び、もっとも力を入れて実験を行っているものになります。skinned fiber

 

写真

Atsuki Fukutani Ph.D.
(Sport Sciences)

Faculty of Sport and Health Science, Ritsumeikan University, Assistant professor

1-1-1 Noji-higashi, Kusatsu, Shiga, 525-8577, Japan

info@skeletalmuscle.net

Copyright © Atsuki Fukutani
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