福谷充輝のホームページ

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筋肥大における超回復理論の再考

今回は、私が筋力トレーニングに関して疑問に思っていることの一つ、
超回復に関する内容を紹介したいと思います。

一般的に筋力トレーニングを行う時、
例えば月曜日に下半身の筋力トレーニングを行うと、
次回の下半身の筋力トレーニングは、翌日の火曜ではなく、
例えば2,3日空けた木曜、金曜、もしくは翌週の月曜日に行うことが多いと思います。

これは、超回復理論というものがあり、
筋肉は、筋力トレーニングをした直後には一時的に破壊され、
2,3日の休息をおいた後に、筋力トレーニングの前よりも
筋肉が大きく、強くなると考えれています。
以前の強さに “回復” するだけでなく、以前よりも強くなるので “超回復” ということかと思います。

これは広く知られていて、
かくいう私も、筋力トレーニングは2,3日のインターバルを挟んで行っています。

ただし、世間には、このような理論に合わないようなトレーニング戦略があり、
かつ、そのトレーニング戦略で世界チャンピオンになったような人がいます。
このトレーニング戦略は、エブリデイ、エブリベンチというもので、
基本的に毎日ベンチプレスを行うというものです。
私が以前通っていたジムでみたことがあるのは、平日の朝と夕方にジムに来て、
毎回ベンチプレスを行っている、というものです。
単純計算で、一週間に10回のベンチプレスです。
これは直感的には異常に見えますし、
私も自分のトレーニングとしては取り入れたことがないのですが、
研究者になって論文を読んでいく中で、これと似たようなケースをみつけました。

これは、動物実験で、筋肥大を生じさせた上で、
それに関連する何かを検証する時に用いられている方法です。
このタイプの実験では、大前提として明確な筋肥大を生じさせないと、
そもそも検証したいものが検証できない状況になってしまうので、
確実に筋肥大が生じる方法を使うことが基本になります。
その時に使われる方法が、協働筋の切除という方法です。

具体的には、例えば足部の曲げ伸ばしを担う下腿三頭筋を対象にすると、
下腿三頭筋のうち、腓腹筋を切り落としてヒラメ筋だけにする、というものです。
残されたヒラメ筋は、これまでは腓腹筋が担っていた足部の曲げ伸ばし機能も担う必要が出てくるため、日常生活を送るだけでも通常では得られないような負担がヒラメ筋にかかります。
そうなると、日常生活でさえも筋力トレーニングになるため、
筋肥大が生じる、という理屈です。

最初にこれを聞いた時は、「そんな方法もあるんだな」程度にしか考えていませんでしたが、
よくよく考えてみると何かおかしいことに気づきました。
これは、日常生活そのものが負荷になっている、
つまり筋力トレーニングになっているということなので、
筋力トレーニングを超回復を待たず、毎日行うということになります。
むしろ、毎日というよりも、起きて動いている時はずっと筋力トレーニングを続けている、ともいえます。
そうなると、筋肥大の基本とも考えられている、超回復の理論が崩れているようにみえます。

これはどういうことなのでしょうか。
現状では、私はこの理由を説明することが出来ないのですが、
一つだけ確実にいえるのは、
【この方法は顕著な筋肥大を起こすために頻繁に用いられる方法】ということです。
ですので、私は、これは偶然といったものではなく、
明確な筋肥大が生じる妥当な理由、メカニズムがあると思っています。
ただし、現時点の科学では説明できない、ということだと考えています。
そうなると、”超回復” という、トレーニング業界では当然のように使われてきた言葉も、
再検討の余地があるのかもしれません。

このような研究にも発展しそうな着眼点は、
“エブリベンチ” といった現実世界で実際に使われているトレーニング戦略から
得られることもあると考えていますので、
このあたりでうまくトレーニング指導の現場と研究が繋がればいいなと思っています。

写真

Atsuki Fukutani Ph.D.
(Sport Sciences)

Faculty of Sport and Health Science, Ritsumeikan University, Assistant professor

1-1-1 Noji-higashi, Kusatsu, Shiga, 525-8577, Japan

info@skeletalmuscle.net

Copyright © Atsuki Fukutani
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